「覚えては忘れる」のは、もう終わり。場所と結びつけて記憶したら、スムーズに定着できた
10/17(金) ライフハッカー・ジャパン
試験のために必死で詰め込んだ知識が、終わった瞬間に頭から抜け落ちてしまう。
会議で話そうと思っていた大切なポイントを、いざというときに思い出せない。
もし、あなたがこのような「覚えては忘れる」という悔しいサイクルに悩んでいるとしたら、まず知ってほしいことがあります。
それは「あなたの記憶力が低いから」でも「努力が足りないから」でもないということです。
多くの場合、その原因は、私たちの脳が本来持つ「得意な記憶のやり方」とはまったく逆の方法で、無理やり情報を押し込もうとしていることにあります。
この記事では、古代ギリシャから受け継がれる「ロケーション法」という記憶術を解き明かします。
これは単なる暗記テクニックの紹介ではありません。
脳に秘められた、驚くべき「空間認識能力」を呼び覚まし、学び方そのものを根本から変革させるためのガイドなのです。
なぜ、私たちの記憶は「ザル」になってしまうのか?
私たちが学習で直面する最大の課題は、記憶しようとする情報が、脳にとって「異物」であるケースが多いという点にあります。
考えてみてください。
歴史の年号、マーケティングの専門用語、プレゼンの要点リスト……。これらはすべて、文脈から切り離された「無味乾燥な情報の羅列」です。
私たちの脳は、進化の過程で「どこに食料があるか」「どうすれば家に帰れるか」といった空間的な情報を記憶する能力を高度に発達させてきました。
一方で、抽象的な情報のリストをそのまま記憶することは、本来とても苦手なのです。
ザルで水をすくおうとするように、脳が苦手な方法で情報を詰め込もうとすれば、記憶が定着せずにこぼれ落ちていくのは当然の結果と言えるでしょう。
この「脳の自然な仕組み」と「一般的な学習法」との間のミスマッチこそが、私たちが越えられずにいた「記憶の壁」の正体なのです。
脳の“得意”を活かす、古からの知恵「ロケーション法」
この根本的な課題に対する、驚くほどシンプルでエレガントな解決策が「ロケーション法」です。
その原理は、脳が苦手な「抽象的な情報のリスト」を、脳がもっとも得意とする「よく知っている場所の光景」に変換し、結びつけることにあります。
たとえば、あなたの自宅。玄関から自分の部屋までの道のりを思い浮かべるのに、何の努力もいらないはず。
脳はその空間情報をすでに完璧に把握しています。
ロケーション法は、この“努力ゼロで思い出せる場所”を、新しい情報を整理・保管するための「記憶の宮殿(マインドパレス)」として活用する技術なのです。
バラバラだった情報が、あなたにとって馴染み深い空間の物語として再構築されることで、驚くほど簡単に、そして永続的に記憶に定着します。
3ステップで完成!「記憶の宮殿」建築ガイド
それでは、実際にあなたの脳内に「記憶の宮殿」を建てるための、具体的でシンプルな3つのステップをご紹介します。
ステップ1:土台となる「ロケーション(宮殿)」を選ぶ
まず、あなたの「宮殿」となる場所を決めます。
重要なのは、努力せずに隅々まで鮮明に思い出せる、馴染み深い空間を選ぶことです。
最適な場所の例:
毎日の通勤・通学路、自宅や実家の間取り、よく行く公園など。
なぜ馴染み深い場所が良いのでしょうか?
それは、ロケーションを思い出すことに脳のエネルギーを割く必要がなく、記憶したい情報との結びつきを構築することに全神経を集中できるからです。
ここが、記憶を定着させるための最初の鍵です。
ステップ2:記憶したい情報を「異常な形」で配置する
次に、覚えたい項目を、選んだ場所の特定の地点(玄関のドア、廊下の角、リビングのソファなど)に順番に配置していきます。
ここがもっとも重要で、創造的なステップです。
ただ静かに置くのではありません。理性を超えた「ありえない!」「バカバカしい!」と感じるほどの、強烈なイメージで情報を結びつけます。
例:「マーケティングの4P」を覚える場合
玄関のドアに巨大な製品(Product)が突き刺さっている。
廊下で大量の値札(Price)が吹雪のように舞っている。
リビングのソファが巨大なショッピングカート(Place)に変わり、走り回っている。
テレビの中で拡声器(Promotion)を持ったアイドルが大声で歌っている。
なぜ奇妙なイメージが良いのでしょうか?
なぜなら、脳は感情が動いたり、日常から逸脱したりした「異常な出来事」を優先的に記憶する性質があるからです。
この「違和感」こそが、記憶に強力なフックをかけるのです。
ステップ3:宮殿の中を「精神的に散歩」し、定着させる情報をすべて配置し終えたら、決まったルート(玄関→廊下→リビング……)に沿って、宮殿の中を何度も歩き回る自分を想像してみましょう。
それぞれの地点で、つくり上げた奇妙で強烈なイメージを再確認してください。
この「精神的なリハーサル」を繰り返すことで、情報とロケーションの結びつきは盤石なものとなり、必要な時にいつでもスムーズに情報を引き出せるようになります。
テストやプレゼンを「精神的なホームグラウンド」に変える
この技術の真価は、情報を思い出すべき「本番の空間」そのものを宮殿に設定することで、最大限に発揮されます。
もし、プレゼンを行う会議室や、テストを受ける教室が事前にわかっているなら、そこがあなたの最高の舞台です。
本番で目にする壁の時計、天井のシミ、教壇といった「動かないもの」の一つひとつを、情報を置いておくための目印にするのです。
そうすれば、本番で緊張して頭が真っ白になっても、ただ部屋を見渡すだけで、そこに配置した情報が次々と思い出されるという、まるで自分だけに見えるカンニングペーパーを持っているかのような状態をつくり出せるはず。
その空間は、あなたにとって完全な「ホームグラウンド」と化すでしょう。
ここまで読んで、あなたはロケーション法が単なる暗記術ではないことに気づいたはず。
自分のよく知る部屋から、小さな「記憶の宮殿」を建ててみましょう。
あなたの学び方、働き方、そして世界の見方さえも変える、価値ある第一歩となるはずです。
著者紹介:Lindsey Ellefson
Lifehackerの特集エディター。
現在は、勉強法や生産性向上術、家事やデジタルの片付けなどを中心に取材。
Lifehacker入社以前は、Us Weekly、CNN、The Daily Dot、Mashable、Glamour、InStyleといったメディアでメディアや政治を取材していた。
ライフハッカー・ジャパン編集部

