高市首相「冒頭解散」決断の危うすぎる全内幕、“自民党260議席”の皮算用と官邸独断専行に潜む“死角”
1/14(水) 東洋経済オンライン
高市早苗首相が1月23日召集の通常国会の冒頭で衆議院の解散を断行すると決断した。
14日夕に自民、日本維新の会両党の幹部に伝達、了承された。
外交日程なども考慮して、正式表明のための記者会見は週明けの19日に行われ、高市首相が解散の大義などについて自らの考えを説明する。
それを受けて政府は衆院選日程を閣議決定するが、「27日公示、2月8日投開票」となる方向だ。
高市首相としては「高支持率による自民党の圧勝で、党総裁選でも再選を果たし、長期政権を目指す考え」(側近)。だが、「官邸の独断専行による冒頭解散」(自民党幹部)に与党内にも反発が残る。
「選挙結果次第では高市首相の求心力が低下する事態」(政治ジャーリスト)も想定されている。
■麻生副総裁もビックリの解散断行
そもそも高市首相は、正月明けまでは物価高対策など「国民に約束した政策の実現が最優先」と繰り返してきた。
それだけに、突然の“方針転換”には自民党の最高実力者とされる麻生太郎副総裁や鈴木俊一幹事長も「事前の相談がまったくなかった」と不満を隠さない。
高市首相の側近は「解散は総理の専権事項。勝てると思えるときにやるのは当然」と胸を張るが、「官邸と党本部の軋轢が選挙後の政権運営の不安要因になる」(自民党長老)可能性も否定できない。
「解散説」が報じられた後のNHK世論調査では、内閣支持率が2ポイント下がり、不支持率が2ポイント上がるなど、「超高支持率」にも陰りが見え始めている。
不支持の理由としては「政策に期待が持てない」「人柄が信用できない」がともに25%でトップだった。
このため多くの政界関係者は、今後の各種世論調査において、本来なら最優先課題である「予算の早期成立」よりも「衆院選勝利」を優先した高市首相の判断がどう受け止められるかに注目している。
高市首相は14日夕、日本維新の会の吉村洋文代表らと首相官邸で会談。23日召集の通常国会の冒頭で衆議院を解散する意向を伝え、吉村氏も了承した。
その後、高市首相は鈴木俊一幹事長にも同様の意向を伝達し、鈴木氏も受け入れた。
衆院選について「2月3日公示、15日投開票」とする日程案もあったが、高市首相は「選挙期間は短いほうがいい」と判断した。23日解散、2月8日投開票となれば、解散から16日後の投開票で、戦後最短となる。
これに先立つ連休明けの13日、政府は通常国会を23日に召集すると衆参両院の議院運営委員会理事会に伝えたうえで、持ち回り閣議で決定した。
同理事会では冒頭に木原稔官房長官が23日召集を伝達した際、野党側から解散の有無をただされたが、「高市首相の専権事項だ」と述べるにとどめた。
その後、自民党側は同理事会で「解散報道があるが、高市首相から正式に解散表明がないので、事実関係を確認して日程を協議したい」と説明。
施政方針演説を含む政府4演説などの日程を示さなかった。
■野党は「党利党略」「経済後回し解散」と非難
野党第1党である立憲民主党の野田佳彦代表は13日朝、記者団に対して「時期を決めるのは総理大臣なので受けて立つしかないが、もし解散を宣言するなら内外ともこれだけ課題があるときになぜ政治空白をつくって解散するのか説明してもらわなければならない」ときちんとした説明を求めた。
また、同党の安住淳幹事長は記者会見で「党利党略だ。国民に届くはずの本予算を先送りしてまで、支持率が高いから有権者に自分たちに投票しろと言わんばかりの態度は決して容認できない」と批判した。
高市政権との連携を進めてきた国民民主党の玉木雄一郎代表は「通常国会冒頭での解散になると新年度予算案や関連法案の年度内成立は事実上無理になり、自民党との合意は実現が難しくなる。
日本経済や物価高騰で苦しむ国民生活に大きな影響を与えることになり『経済後回し解散』と言わざるをえない。
合意を当事者からひっくり返すことになれば、信頼関係が揺らぐ」と述べた。
国民民主党が自民党との連携を見直せば、高市首相が期待した参院での過半数はなくなる。
ただ、玉木氏は立憲民主党との候補者調整について「違うことを言っていた政党が、選挙になったら調整するという考え方自体に有権者は不信感を持っているし、政治不信の源にもなっている。
調整を否定はしないが、大義もないのに調整するのは、かえって議席を減らすことにつながる」と選挙協力を否定した。
また、高市総裁誕生で連立離脱を決断した公明党の斉藤鉄夫代表は「円安が進み、経済が大変な状況のときに、国民生活をないがしろにする解散ではないか。
大義はないが、しっかりと受けて立って選挙の準備をし、国民の信頼を得る結果を出したい」と決意表明。
併せて「これからは比例代表中心の戦いになる。
党が単独で小選挙区で勝つのは非常にレベルの高いことであり、勝てるかどうかを党として見極めて決めたい。
今週中にも結論を出したい」と語った。
共産党の田村智子委員長は記者会見で「高市総理大臣自身が新年度予算案を通すことで暮らしを豊かなものにすると年末年始から表明していたことと矛盾し、つじつまが合わない。
通常国会で論戦を行ったうえで国民に信を問うのが当たり前で、それをやらないとしたら本当に自分勝手で、党利党略の解散でしかない」と厳しく批判した。
高市首相が「冒頭解散」を決断するまでの経過を振り返ると、官邸と自民、維新両党幹部との意思疎通の乏しさと、それによる混乱が浮き彫りになる。
そもそも高市首相は、昨年の臨時国会閉幕の時点では、物価対策の実効性を高めるため、成立した大型補正予算の速やかな執行と、年末に閣議決定した超大型の2026年度予算案の早期成立に全力投球する意向だったはず。
だからこそ、早期解散の可能性を問われても「そんなことを考えている暇がない」と繰り返していた。
そうした高市首相の態度が微妙に変わったのが、1月5日の伊勢神宮参拝後の年頭会見でのやり取りだった。
記者団から、高い内閣支持率を背景に衆院解散に踏み切ることは選択肢にあるかと問われると、「目の前の課題に懸命に取り組んでいるところだ」とだけ答え、否定のトーンを弱めた。
■背中を押した「260議席超」という調査結果
その背景を探ると、自民党が昨年末に実施した全国的な情勢調査で「いま解散すれば自民党が単独過半数を回復」との結果が出たことにたどり着く。
さらに、年明け4日の同様の調査では、「自民党が260議席超を獲得」という驚くべき数字が出たとされる。
自民党の選挙担当者によると、「この調査結果が高市首相に報告されたのは7日以降で、その段階で高市首相は『冒頭解散も選択肢』と判断した」というのが“真相”のようだ。
ただ、政界関係者の間では「高市首相の決断の背景には、韓国で大問題となっている旧統一教会と自民党との関係がある」との見方も多い。
韓国では、旧統一教会が衆参選挙で支援した自民党議員は290人で、内部文書には高市首相の名前が32回も出てくるとの報道もある。
また、大問題となった高市首相の腹心とされる自衛隊元空将の首相補佐官の「核保有」発言も、処分もないまま放置されている。
当然、「解散しないで通常国会での予算委員会の審議が始まれば、野党の集中砲火で高市首相は立ち往生となりかねない」との不安は拭えない。
こうした火だるま状態を未然に防ぐには、解散ですべてを過去のものにするしかないというわけだ。
高市首相は冒頭解散の大義などについて19日にも記者会見して国民に説明するとみられる。
国民を納得させる説明ができるかどうかが、今回の「冒頭解散」の選挙結果を左右することになりそうだ。
泉 宏 :政治ジャーナリスト

