衝撃の朝日報道含め、今回の選挙報道には検証が必要!全国紙と週刊誌のあまりの違いも気になる
篠田博之 月刊『創』編集長
2/7(土)
今回の選挙報道には気になることがとても多い
東京新聞で毎週日曜の特報面に「週刊誌を読む」という週刊誌評を書いていることもあって週刊誌はほぼ全誌読んでいるし、月刊『創』(つくる)はメディア批評誌だから新聞も全国紙始め購読しているが、今回の総選挙をめぐる報道については気になることがとても多い。
例えば週刊誌報道と全国紙の報道スタンスがあまりに違いすぎる。
新聞といっても在京紙のうち東京新聞は独自のスタンスで、議席予測というべき情勢調査報道を1面で大々的に報じることはしない方針だという。
それに対して全国紙は、選挙戦序盤から読売、日経、毎日などが相次いで、自民党優勢で単独過半数をうかがう勢いと報じてきた。
そして大きな衝撃を与えたのは2月2日の朝日新聞で、1面トップで「自維300議席超うかがう 中道ふるわず半減も」という見出しを掲げた。
単独過半数どころか与党で300議席超となれば憲法改定も視野に入る議席数だ。
ウェブでは前日の1日夜からそのデータを公表したため、政界を始め多くの人に衝撃が走った。
中道改革連合にはパニックも起きたという報道もあった。
朝日新聞の報道に続いて2月3日には産経新聞も一面トップで「自維300議席超す勢い」と報じた。
さらに終盤戦においては、6日付毎日新聞が「自維3分の2うかがう」、日経が「自維、300議席うかがう」と見出しに打つなどしている。
あくまでも調査時点での有権者への電話やネットでの調査に基づく数字なのだが、大きな見出しが躍ると、最終的な選挙予測を新聞が打ち出しているように見えて、まだ投票先を決めていない有権者の投票行動にも影響を及ぼしているのではとも言われている。
一方、週刊誌報道は高市流選挙に批判的トーン
一方、週刊誌は、選挙戦の前半には自民党の単独過半数は困難というトーンの記事が
多かった。
後半になってからも全国紙のような見出しを掲げるのでなく、高市首相や自民党の思惑に対して批判的なトーンの記事が目立つ。
直近でも例えば『週刊新潮』2月12日号の特集は「2・8総選挙 大マスコミは自維『300議席』予測ーー高市フィーバーの虚実」。
この総選挙については首相側近からも「政策論争は脇へ追いやられ、争点なき人気投票と化しています」「誰の人気が一番かを競う戦いです」という声が漏れているなどと指摘している。
そもそも高市首相は、選挙に勝ったら「国論を二分する」ようなテーマに手をつけると明言しており、そうであればその中身を示して国民の信を問うのが総選挙のあり方だと思うのだが、そうしようとせず、自分を選ぶか中道改革連合の野田氏や斉藤氏を選ぶのかという、人気投票のフレームに選挙戦を落とし込んだのだった。
人気投票で勝利を収め、それをあたかも白紙委任を取り付けたかのような論理にすり替えて「国論を二分する」、恐らく戦後の憲法に依拠した平和主義などを大きく転換させるという思惑で、まさに無茶苦茶な話だ。
あまりもひどい論法で、メディアはもっと強く批判すべきだろう。
朝日新聞は前述した通り2月初めに「自維300議席超うかがう」という衝撃報道に火をつけたが、一方で「2026衆院選」というワッペン記事を次々と掲げ、例えば2月4日付紙面では「国論二分って一体何ですか 語られぬ別姓・スパイ防止法」、また「保守色見せぬ高市演説 支持率維持へ 側近『ボロ出すわけには』」という記事を掲げ、高市首相の選挙戦を批判している。
2月初めの衝撃報道に対して批判の声もあがっていることを気にしてはいるのかもしれない。
週刊誌では『週刊現代』2月16日号の森功氏の署名記事「高市総理に自爆解散を迫った官邸の黒幕たち」など、その後も高市選挙への批判的記事が目に付いた。
突出していた『週刊文春』の報道
そうした週刊誌報道の中でも突出していたのは『週刊文春』だ。
選挙戦の渦中でも高市首相の疑惑を追及する特ダネを次々と放っている。
例えば2月5日号では「高市事務所裏帳簿を入手!統一教会&逮捕社長のパー券購入を隠蔽していた」という特集記事。
高市事務所のパーティ券購入者や金額、振り込み日などを詳細に記した内部資料を入手したという、すごいスクープだ。
政治資金規正法では20万円を超えるパー券の収入分に限って報告書への記載が義務付けられているのだが、この内部資料は全ての分が記載された「裏帳簿」だという。
同誌はそこに記載されているパー券購入者に取材をかけ、その資料が実態を反映していることを把握する。
そして詳しく分析したうえで、統一教会関係団体が含まれていることや、購入名目の“付け替え操作”が行われているなどと告発したのだ。
高市事務所の責任者に直撃取材を敢行した様子も詳しく書かれている。
選挙が始まっても疑惑追及の手は緩めないという編集部の意思が感じられる迫真のレポートだ。
最新号の2月12日号ではその第2弾として「高市首相は統一教会に挨拶状を送っていた!」という記事を掲載している。
高市首相のNHK出演ドタキャンの裏事情
その第2弾の記事の中で注目されたのは、2月1日のNHK「日曜討論」への出演を高市首相が突如キャンセルした裏事情だ。
実は高市首相側では放送2日前から他の議員に代打出演を打診していたという官邸関係者の証言が書かれている。
つまり高市首相は、党首討論で追及されるのを回避するために出演をドタキャンしたのではないかという話だ。
高市氏側はその記述の火消しに走っているが、この話は大きな話題になった。
週刊誌の場合は、新聞のように大規模な情勢調査を行う態勢がないこともあるのだろうが、全国紙が次々と打ち出す自民党ないし与党圧勝の報道と明らかに距離を置いているように見える。
特に『週刊文春』の場合は、選挙の行方に影響を及ぼそうと、政権の疑惑は強く批判すべきとの一定のスタンスに基づいた報道であることが誌面から窺える。
選挙報道の徹底した検証を
今回の選挙報道について検証が必要と特に思うのは、この1〜2年、東京都知事選や兵庫県知事選での「SNSと選挙」の問題が大きく議論され、新聞やテレビ各社が、選挙報道のあり方について内部で議論を重ねたり、積極的に紙面化したりという動きが見られたからだ。
そういう議論を経て臨んだのが今回の総選挙報道といえる。
特に選挙戦渦中でのファクトチェックについては、大手メディアはいずれも積極的に取り組み、読売新聞のように、新聞協会レベルで協同作業としてそれを行うよう提案したという動きもあった。
前述したように朝日新聞が「2026衆院選」というワッペン記事で選挙戦での言説をチェックしているのもその流れだろう。
選挙の結果は8日の投開票で明らかになるが、それを踏まえて大手メディアにはぜひ、選挙報道の検証作業をきちんと行ってくれるよう提案したい。
今回の総選挙は、多くの人が言っているように、結果によっては、またそれを利用して高市首相が「国論二分」の政策を次々と打ち出してくる恐れがあるという意味でも、日本社会の歴史的転換になってしまう恐れがある、とても怖い流れだ。

