2019年06月13日

東京五輪のテロ対策で専門家が恐れる盲点

東京五輪のテロ対策で専門家が恐れる盲点
2019年06月12日 PRESIDENT Online

東京五輪でテロが発生する恐れはあるのか。
国際テロ情勢や危機管理に詳しい和田大樹氏は、「国際テロ組織などによる計画的で規模の大きなテロが発生するリスクは低いが、車やナイフなど日常生活で簡単に手に入る物を使ったテロが起きる恐れはある。
そうした『ローンウルフ(一匹狼)』への対策が重要だ」と指摘する――。

■テロリストにとって重要なのは「タイミングと場所」
東京五輪がいよいよ来年に迫ってきた。
一方で、五輪を舞台にしたテロが起きるのではないかという懸念も社会にはある。
飛行機や電車、地下鉄やバスなどに乗れば、「テロを許さない」「テロ警戒」などの文字を目にするし、鉄道会社などは地元警察と協力して、テロ対策訓練をよく実施している。
五輪本番が近づくにつれ、こういった動きは一層進むことだろう。
では、なぜ東京五輪でテロが懸念されているのか、また、どのようなテロが最も可能性があるのか。

今回はこの二つに絞って説明したい。

一つ目の、なぜ東京五輪でテロが懸念されているのかだが、これについては、テロリズムの歴史と近年の動向を理解する必要がある。
まず、テロリズムとは、政治的・社会的な主義・主張を持つ組織や個人が、自らの目的を達するために暴力を行使し、社会に不安や恐怖を与える行為である(専門家によって、テロと捉える範囲には少なからず違いがある)。
テロ組織は自らの目的を達成するため、暴力という手段で社会に不安や恐怖を植え付けようとする。
テロ組織にとって、テロ攻撃とは手段であって、目的ではない。

しかし、何も考えないで行動するテロ組織は存在しない。
テロ組織と国家(公権力)が戦えば、国家が勝つ。
だから、テロ組織は国家との正面衝突はできるだけ避け、国家の不意を衝(つ)ける機会をうかがう。
タイミングや攻撃場所はテロ攻撃の成否を大きく左右するため、テロ組織としては、攻撃によって社会に大きなインパクトを与えることができそうなタイミングを選ぶ。

過去、世界中のメディアの注目が集まる五輪では、そうしたテロ事件が実際に起こってきた。
1972年のミュンヘン五輪では、パレスチナの武装組織「黒い九月」が選手村でイスラエル人選手11人を殺害する悲劇があった。
1996年のアトランタ五輪では五輪公園に仕掛けられた爆弾が爆発し、1人が死亡、100人余りが負傷した。

21世紀に入っても、2008年の北京五輪の際、中国からの分離・独立を掲げるウイグル系のイスラム過激派の活動が活発化し、2014年のソチ五輪の直前には、ロシアからの分離・独立を掲げるカフカス系のイスラム過激派によるテロ事件が繰り返し発生した。

■「ローンウルフ型テロ」の脅威
さらに、テロ組織とは具体的な接点はないものの、イスラム国やアルカイダなどが発信し続けるイスラム過激思想、また、今年3月のニュージーランド・クライストチャーチのモスク襲撃テロのように、移民・難民への敵意をむき出しにした暴力的な白人至上主義などの影響や刺激を受け、単独的にテロを実行する個人(ローンウルフ)が大きな脅威となっている。

フランスの革命記念日にあたる2016年7月14日、ニースにある海岸線のメインストリートで同日を祝う花火を見物していた人々に向かって、トラックがジグザグに突っ込み、84人が死亡、200人以上が負傷した。
実行犯はチュニジア生まれの31歳(当時)で、テロ組織との関係はないものの、事件の数カ月前からイスラム国やアルカイダなどの動画を観るなどして過激化し、ひげも生やし始めていたという。

また、2016年12月19日、ドイツ・ベルリン中心部にあるクリスマスマーケットに大型のトラックが突っ込み、12人が死亡、50人以上が負傷した。
実行したのはチュニジア国籍の20代の男で、イスラム国の指導者であるバグダディ容疑者に忠誠を誓い、逃亡先のミランで殺害された。

テロ組織も、ローンウルフ的なテロリストも多種多様であり、それら全てが五輪を狙うわけではない。
しかし、過去、テロ組織はタイミングとして五輪を利用しており、イスラム過激思想の影響を受けるローンウルフ的なテロ事件も、フランスの革命記念日やキリスト教行事であるクリスマスの時期に起きている。
今年4月21日に発生したスリランカ同時多発テロも、キリスト教の復活祭にあたるイースターのタイミングで、複数のキリスト教会が狙われた。
また、上記のモスク襲撃テロも、金曜礼拝で集まるイスラム教徒を狙ったものだった。

■簡単に手に入るものが武器になる
次に、どのようなテロが最も可能性があるのかである。
最も現実的に考えられるのは、やはり日常生活で簡単に手に入る物を使ったローンウルフ的なテロだ。

新年が明けたばかりの2019年1月1日未明、東京原宿にある竹下通りを車が暴走し、8人が負傷する事件があった。
車を運転していたのは職業不明の21歳の男で、1月5日の朝日新聞の報道によると、「死刑制度に反対している、同制度は国民の総意、だからなるべく多くの人を狙った」などと供述したとされる。
同事件は依然として不明な点も多いが、東京五輪で懸念されるのはまさにこういったタイプのテロだ。

銃器の入手や自爆装置の製造は、実際問題として日本ではかなり困難だが、車両などは簡単に購入/レンタルでき、また刃物などは日常的に手に入る。
日常的に手に入る車両やナイフという“武器”を使って、大勢の人が集まる場所に突っ込んだり、振り回したりするのは、今日では流行のテロ手法になってしまっている。
原宿の事件は、外形上、上記のニースやベルリンの事件と何ら変わらない。

■組織的なテロは日本では考えにくい?
一方、21世紀になってイスラム国やアルカイダなど国際的なネットワークを持つイスラム過激派によるテロが後を絶たないことから、国内でもそういったイスラム過激派によるテロを懸念する声がある。
しかし、筆者は東京五輪でこういったテロ組織のメンバーがテロを起こす恐れは低いと考えている。
なぜならば、イスラム国やアルカイダなどは、主として欧米諸国やイスラエルを敵とみなしているからだ。

2013年1月のアルジェリア・イナメナス人質テロ、2015年3月のチュニジア・バルドー博物館襲撃テロ、そして4月のスリランカ同時多発テロのように、イスラム過激派組織によるテロで日本人が犠牲となった事例はあるが、それらは“日本人を意図的に狙った”ものではなく、“日本人が巻き込まれた”テロ事件である(2016年7月のバングラデシュ・ダッカレストラン襲撃テロについては、今後の調査が待たれる)。

また、アルカイダなどは過去に日本を狙うとする声明を出したことがあったが、それによって戦闘員らが全面的に日本人を狙っているわけではなく、そのようなテロ事件は実際起こっていない。
さらに言えば、そういった組織のメンバーが日本に入国することも難しく、日本国内に彼らが好むような環境が整っているわけではない。

以上のような事情に照らすと、要はテロ組織以上に、その過激思想とテロ手法がより現実的な脅威である。
インターネットや会員制交流サイト(SNS)がここまで進んだ現代において、思想や情報といったものは簡単に国境の壁をすり抜ける。
テロ組織のメンバーの入国阻止も重要であるが、現実的な脅威はすぐ側にあり、より身近なテロ対策こそ重要だ。

■人混みに近づかない、長居しない
身近にいる人間が、手に入りやすい物を利用して行うローンウルフ型のテロは、防止することが極めて難しい(テロという行為はもともと、実行する側に有利なものだが)。

ひとつの対策として、大勢の人々が集まる場所を「歩行者天国」として車両の通行を禁止し、その外に車両の進入を防止する強固なブロック塀などを置くことは有効だろう。
各自でできるテロ対策もある。

五輪の期間中には、会場やその周辺だけでなく、新宿や渋谷などでも大勢の人々が集まることが考えられる。
そのような場所をできるだけ「避ける」「近づかない」、もしくは「長居しない」など、注意を持って行動することで、巻き込まれるリスクを下げることができる。
また、2015年11月のパリ同時多発テロや、2017年5月のマンチェスターアリーナ自爆テロでは、大きな音が響き、大勢の人でごった返す閉ざされたコンサート会場が標的となった。
歌手の声や楽器の音で銃声に気づくのに遅れ、うまく避難できなかったとの声も聞かれる。

東京五輪でもコンサート会場のような状況が一部で想定されることから、非常口を事前に確認する、周囲の音に注意が払えるようイヤホンを付けない、といったことも意識したいところだ。

東京五輪本番まで、あと1年しかない。
身近なテロ対策からでもいいから着実に実施していけば、それが社会の意識を向上させ、五輪の安全な成功にもつながるはずだ。 

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)
オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学非常勤講師
1982年生まれ。
岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。
専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。共著に『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』(同文館)、『技術が変える戦争と平和』(芙蓉書房)など。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)。
研究プロフィール https://researchmap.jp/daiju0415/
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2019年06月12日

炎上する「老後2000万円」報告書問題、最悪なのは麻生大臣だ

炎上する「老後2000万円」報告書問題、
最悪なのは麻生大臣だ
2019/06/12 ダイヤモンドonlin(山崎元)

「老後報告書」の炎上は不思議でならない
 通称「老後報告書」、金融審議会市場ワーキンググループによる「高齢社会における資産形成・管理」(2019〈令和元〉年6月3日付)が、いわゆる「炎上」状態にある。
 これは、どうしたことか。
筆者は、当初、この炎上を不思議な思いで眺めていた。

 本連載で先週書いたように、
この報告書は、老後の資産形成と管理について国民個人の立場から書かれたもの。
関係者が多いためか、率直に言って内容は「ゆるい」し、不徹底だと思ったのだが、
筆者の心配はこの報告書が高齢者向けの金融商品・サービスのあざといマーケティングに利用されるのではないかという可能性にあった。

 ところが、現在の議論は、「公的年金は破綻しているのではないか?」
「国民に2000万円貯めろという政府の言いぐさは無責任だ」といった妙な方向に向いている。

 報告書で問題の「約2000万円が必要」に至る箇所を見ると、「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると」(報告書P.10)、毎月5万円程度を保有資産から取り崩しており、これを基に「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取り崩しが必要となる」(P.16)と試算してみたにすぎない。
 事実に基づく単なる計算であって、これに文句を言うこと自体が奇妙だ。

そもそも野党側の追及がピント外れだった
 また、年金が「100年安心」だというのは、一定の経済前提の下での公的年金財政の持続性のことであり、個々の高齢家計に資産の備えが必要ないことを訴える表現ではない。
「100年安心だと言っていたのに、今になって2000万円不足だから貯めておけというのは無責任だ」とか、まして「年金の破綻をまず謝れ」と言うに至っては、ピントの外れた言いがかりに近い。

 実際の家計は「平均的な姿」の家計以外に、高所得・高支出の家計もあれば、低所得・低支出の家計もあるし、現役時代と老後で支出をどう配分するのかは、個々の家計の意思決定次第だ。

「2000万円」という数字は印象的だが、報告書は「平均的な姿」を目指せと強制しているわけではないし、まして公的年金が破綻すると言っているわけでもない。
公的年金の給付が「マクロ経済・スライド方式」に基づいて今後徐々に削られることは、もともと分かっていた話だ。
 野党側の追及の初動は全くピント外れだったのだ。

 政治的な駆け引きがあるので、無理な注文かもしれないが、「2000万円!」と絶叫するのは愚かに聞こえるだけなので、できたら即刻やめてほしい。
本来、本件は参議院選挙の争点になり得るようなテーマではない。

麻生大臣が上司ではかわいそう
 ところが、追及の矢面に立った人物が、麻生太郎大臣(財務・金融担当)だったのがまずかった。
彼は、何と「表現が不適切だった」と報告書をバッサリと切って捨てた。
「2000万円は、単に平均値に基づく高齢家計の試算を示しただけで、何の問題もない。
報告書を丁寧に読んでください」とでも説明しておけばよかったところを、早々に表現の非を認めた。

 麻生氏は、年金が話題になるとまずいと思い、この問題を早く終わらせたかったから、「表現が不適切」で済まそうとしたのだろう。
しかし、この手の逃げ腰は、追及したくなる心理の火に対して大いに油を注ぐ効果がある。
麻生氏の初期対応の誤りで、この問題は「炎上」に至ったと筆者は思っている。

 それにしても、委員の意見をまとめて表現を調整して報告書をまとめた事務方の担当者は、上司筋である大臣に「表現が不適切」と言われては立つ瀬がない。
こんな上司の下で働くのではたまらないだろうと、ご同情申し上げる。
 しかし、結果的には、部下をもう少し大切に思う気持ちを持って丁寧に答弁していれば、この心ない上司の側でも炎上に巻き込まれずに済んだのだろう。
つまりは、不心得に対して罰が当たったような展開であり、世の中は案外バランスが取れている。

 なお、答弁としては、現役世代の手取り収入額に対する受給開始時の年金額の割合を示す「所得代替率50%」に言及した安倍晋三首相の発言も危ない。
所得代替率は、これまで分子が名目額、分母が可処分所得といういびつな計算で示されていたことが、国会で指摘され(指摘したのは元厚生労働大臣の長妻氏だ)、塩崎恭久厚労大臣(当時)が不適切な計算であったことを認めている。
 分子・分母を共に可処分所得で計算すると数字は相当に低下するはずなので、「所得代替率50%」を基準とする説明に首相がこだわると、「年金はやっぱり安心ではない」という印象を国民に与える可能性がある。

麻生氏の無礼に次ぐ無礼
 後の質疑で話題の報告書の全文を読み込んでいなかったことが判明した麻生大臣だが、「表現が不適切」だと、部下ばかりか、報告書を了承した審議会の委員たちにまで恥をかかせた。
そして、彼は、さらにこの報告書を正式なものとして受け取らないと言い出した。

 そもそも、大臣は、審議会の有識者とされる人々に対して、専門的識見に基づく意見の提出を依頼している立場だ。
その報告書を、都合が悪いから「受け取らない」と言う麻生氏は一体どこまで失礼にできた人物なのか。
 しかし、この度重なる失礼も、罰当たりのブーメランを加速する結果に終わるのではないか。

 受け取りを拒否したとしても、報告書の計算自体が変わるわけではない。
また、報告書が指摘した老後に向けた資産形成等が必要なくなるわけでもない。
 まして、麻生氏に、報告書に代わる老後の備えの対案があるようには見受けられない。
 報告書の各所に注目が集まる一方で、麻生大臣は、事実の説明とともに「それで、どうするのですか?」と対案を求められることになるだろう。
 ここでも、「単なる表現の問題」で逃げ切ろうとする姿勢が見えるので、追及する側も、見物する側も、麻生氏が追い込まれることに対して「張り合い」を覚える構造になっている。

 元々どうということのない報告書がこれだけ騒がれる問題となるのだから、組織のトップが不出来であることが、いかに不幸なことなのかが分かる。

「平均値」で老後を語るな
 最後に一言補足しておく。
 報告書が示した試算は、高齢家計の「平均」に基づくものだが、個々の家計が多様である中で、平均に基づく計算だけを示すのはやめた方がいい。
ダメなファイナンシャルプランナー(FP)が書く本や原稿は、平均で老後のお金の問題を語る傾向があるが、これと同類の不備だ。

平均値に基づく試算に対して、低所得・低支出な人は「こんなに必要なのか」と不安になるし、高所得・高支出な人も「こんなもので足りるのか」と不安になる。
平均は誰も安心させない。
 必要なのは、個人が自分の必要貯蓄額を計算できる「方法」を教えることだ。

(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
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力強く安心元気を誓う"自民党公約"の稚拙

力強く安心元気を誓う"自民党公約"の稚拙
2019年06月11日 PRESIDENT Online(編集部)

■絵に描いたような「やっつけ仕事」でつくった公約
自民党は夏の参院選に向けて6月7日、選挙公約を発表した。
絵に描いたような「やっつけ仕事」でつくったとしか言いようがない内容だ。

目玉といえる政策は、ほとんどなく、具体性も乏しい。
現段階では有利な選挙戦が予想される中、安全運転を心掛けてのことなのだろう。
しかし、そんな公約の中に選挙戦での火種となる記述がある。
今後の選挙戦で野党の追及を受けて守勢に回ることになりかねない。

■2年前の衆院選公約の「コピペ」といえる内容
手元にある自民党の参院選公約では、スーツ姿の安倍晋三首相がほほ笑む写真に「日本の明日を切り拓く。」と記されている。
2年前、2017年の衆院選の時の公約「この国を守り抜く。」とデザインはそっくりだ。
1枚めくると安倍氏が4月1日に新元号「令和」について説明している時の写真とともに「自民党総裁」の肩書で安倍氏のメッセージが書かれている。
これも、国連での演説と思われる安倍氏の写真とメッセージが書かれている2年前の公約とよく似ている。
さらにページを進めていっても17年公約と酷似している。

自民党の公約は主要項目をまとめた「本編」と、詳細な政策を羅列した「政策バンク」の2層構造になっており、今回もそれを踏襲している。
今回の「本編」は18ページで前回と同じ。
主要政策の数は前回も今回も6つ。
両方とも最後の6番目に「憲法改正」を置いている。
ここまでくると「コピペ公約」といわれても仕方ない。

■21枚のうち20枚に安倍氏が写る「首相依存」
掲載写真も安倍氏の活躍を前面に出すコンセプトは同じ。
17年公約では表紙を含めて20枚の写真のうち10枚に安倍氏が写っていた。
一方、今回の公約は21枚のうち20枚に安倍氏が写る。
2年間のうちに自民党は「安倍氏依存」がさらに進んでいるということだろうか。
こんな公約にも、火種は潜んでいる。
先ほど紹介したように自民党の公約は「本編」と「政策バンク」に分かれているが、火種は注目度の低い「政策バンク」の冒頭「外交・安全保障」の項目にある。

北朝鮮政策について「政策バンク」では「制裁措置の厳格な実施とさらなる制裁の検討を行うなど国際社会と結束して圧力を最大限に高め……」とある。

■北朝鮮に対し「追加制裁の検討」というズレた表記
安倍氏は現在、北朝鮮による日本人拉致問題を打開するため「前提条件なし」で金正恩朝鮮労働党委員長との日朝首脳会談の実現を目指すことを表明している。
その方針と「追加制裁の検討」という表記は明らかにずれている。

もう一つ。「政策バンク」の中では北方領土については「わが国固有の領土」と明記している。
安倍政権は北方領土交渉を前進させるため、ロシアを必要以上に刺激しないよう神経をつかっており「わが国固有の領土」という表現も使わないようにしている。
ところが公約の方には明記されている。
ここでも政府と与党の足並みはそろっていない。
なぜこのようなことが起きたのか。

■保守派の意見を「政策バンク」だけに載せて調整した
自民党内には、従来の対北朝鮮、対ロシアの外交方針を軌道修正する安倍外交に違和感を持つ勢力が少なくない。
北朝鮮やロシアに毅然たる対応を維持すべきだという保守的な勢力が中心だ。
特に北朝鮮については、圧力を弱めるべきではないという意見が強い。
彼らは安倍政権を支持する層の核を占める勢力で、無視するわけにはいかない。

自民党関係者は耳打ちする。 「そういった保守派の意見は『本編』には載せない代わりに『政策バンク』に載せることで妥協を図ったのだろう」
つまり「本編」の方は政府の方針に沿った書きぶりにして、格下の「政策バンク」でバランスを図ったということのようである。
「融通無碍」で鳴る自民党らしい発想ではあるが「政策バンク」とはいえ公約は公約。

与党の公約に政府の方針と齟齬(そご)のある記載があっていいはずがない。
当然ながら野党側は、この矛盾を突いてくるだろう。
終盤国会での論戦や、選挙の際の討論会で「安倍氏は条件をつけずに交渉をすると言っていたが、追加制裁も検討するのか」「公約では北方領土が『わが国固有の領土』と書いてあるが、そういうことでいいのか」という追及が相次ぐことになるだろう。

■当初の自民党公約は、民主党の「失敗」を教訓としていた
冒頭でも紹介した通り、今回の自民党公約は、かなりの「手抜き」と言っていい。
2000年代、公約を「マニフェスト」と呼び、数値目標や期限が明記された具体的な公約とすべきだという運動が広がった。その流れにそって2009年、民主党が政権についた。

だが、民主党はマニフェストで掲げた約束の多くを実現できなかった。
その結果、民主党は3年あまりで政権から転落するのだが、同時に「マニフェスト」ブランドも失墜した。
失敗したのは政策実現能力のなかった民主党であって、マニフェスト自体に罪はないのだが……。

その後、政権に復帰した安倍自民党は、これまで2度の参院選、2度の衆院選を経験してことごとく勝利してきたが、民主党の「失敗」を教訓として、公約は抽象的な内容や決意表明のような言葉が並ぶものを発表していた。

■これまでの公約の中でも最も具体性が乏しい内容
政権復帰後、5度目の国政選挙公約となる今回は「力強い」「しなやかで」「安心」「元気な」「快適で」「強靱な」などの形容詞が続く。
これまでの公約の中でも最も具体性が乏しい内容といえる。

今回の対北朝鮮、対ロシア政策についての記載は、常勝自民党が公約を軽視したことによって生じたことと言うことができる。
政府方針と齟齬のある内容が自民党の公約に紛れ込んだ理由について、先ほどは「『本編』と『政策バンク』を使い分けた」という自民党関係者の見立てを紹介した。
その一方で「政策バンク」の方は従来蓄積された政策をそのまま羅列させただけで、きちんとしたチェックが入らなかったのが原因との見方さえある。
どちらが正しいのかは分からないが、いずれにしても、自民党内で公約に対するこだわりが乏しいことにかわりはない。
これは、有権者を軽視していると言ってもいい。

参院選に合わせて衆院を解散し、衆参同日選となる可能性が今も語られ続ける中、選挙戦で有権者軽視が明らかになってくれば、自民党は選挙戦で思わぬ逆風にさらされるのではないか。
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