糖尿病は「治せる」、しかも意外に速く、必要なことや血糖値がすぐ改善しやすい人とは
3/11(火) ナショナル ジオグラフィック日本版
薬を使わずに血糖値が正常な状態が続く「寛解」は可能
血糖値の管理は、すべての糖尿病患者にとって極めて重要だ。
糖尿病は慢性疾患であり、多くの場合、生涯にわたる薬物治療が必要となる。
ただし多くの人にとって、2型糖尿病は食事、運動、睡眠習慣の改善によって逆転させられる。(Sébastien Agnetti)
糖尿病は体を弱らせて生命を脅かす慢性疾患であり、失明、腎不全、心疾患のリスクを高める。
しかし近年、この病気が必ずしも一生付き合わなければならないものではないことが明らかになりつつある。
世界保健機関(WHO)によれば、世界では8億3000万人以上が糖尿病を患っており、そのうち95%以上が2型糖尿病だ。2型糖尿病は、1型とは異なり、成人になってから発症する傾向にある。
また、米国人の約3分の1が糖尿病予備群だが、そのうち80%以上は自分がそうだと気づいていない(編注:日本の厚生労働省の「令和5年国民健康・栄養調査」では「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性16.8%、女性8.9%)。
「2型糖尿病とは、たとえて言うなら自宅にシロアリがいるようなものです。最初はあまり症状が出ませんが、時間がたつにつれ、内部に深刻なダメージを与えるようになるのです」と、米ジョスリン糖尿病センターの医師オサマ・ハムディ氏は言う。
「しかし幸いなことに、早期の発見と介入によって、病状の進行を逆転させたり、寛解(症状が軽くなったり消えたりした状態)を促したりできることがわかってきました」と氏は話す。
2型糖尿病の進行を逆転させるために必要なことや、寛解が一般に想像されるよりも早く起こり得る理由について、以下に説明しよう。
2型糖尿病はなぜ起こる?
2型糖尿病は、インスリン抵抗性(効きにくくなった状態)やインスリン分泌の異常によって引き起こされる。
インスリンとは、食べたものが分解されてブドウ糖(グルコース)になり、血液中に入った際に膵臓から分泌されるホルモンのことだ。
インスリンが血液中のブドウ糖(血糖)を細胞内に取り込ませるおかげで、細胞にエネルギーが供給される。この働きにより、血糖値が下がる。
「2型糖尿病になると、このプロセスが適切に機能しません」と、米ネブラスカ大学医療センターの糖尿病・内分泌・代謝部門助教、シドニー・ブラウント氏は説明する。
細胞でインスリン抵抗性が起きたり、膵臓が十分なインスリンを作れなかったりすると、血液中の余分なブドウ糖が臓器や全身の血管にダメージを与える。
po「血管の損傷こそが、糖尿病が四肢切断、勃起不全、透析、認知症、失明、心臓発作、脳卒中の主要な原因となる理由なのです」と、米テキサス大学医学部准教授エリザベス・ボーン氏は言う。糖尿病はまた、腎臓病、神経障害、数種類のがんの原因にもなる。
ただし幸いなのは、「2型糖尿病の原因の大部分が、元に戻せる代謝異常であること」だと、米タフツ大学フリードマン栄養科学政策学部のフード・イズ・メディスン研究所所長であり、心臓専門医でもあるダリウシュ・モザファリアン氏は述べている。
これはつまり、適度な減量、ストレスを減らす、健康的な食事、そして運動量を増やすことなどが、「臓器や組織の正常な機能を回復させるうえで役立つ」ことを意味するのだと氏は言う。
なぜ減量は糖尿病を逆転させうるのか
減量は糖尿病の寛解を促す最も効果的な方法だ。
なぜなら「インスリン抵抗性が内臓脂肪の多さと密接に関連している」からだと、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校デビッド・ゲフィン医科大学院の教授であるO・ケンリック・ドゥルー氏は言う。
そのメカニズムは完全には解明されていないものの、「内臓脂肪は、血液中のブドウ糖を吸収する臓器と影響し合うことで、2型糖尿病につながるインスリン抵抗性をそれらの臓器に引き起こすことがわかっています」と、ドゥルー氏は言う。
この関係は、BMI(体格指数)が高いと2型糖尿病のリスクが大幅に上昇することを示す長期的な研究によっても裏付けられている。
一方、減量と運動による生活改善でBMIが10%減るとインスリン感受性が57%上昇することを示した研究や、7%以上の減量で糖尿病の発生率が58%下がることを示した研究もある。
ただし、BMIが必ずしも健康状態を総合的に測る最善の指標になるわけではないと、専門家は強調している。
おすすめの運動は
運動も糖尿病に大きな影響を与える。
なぜなら、「体を動かすことは体重の減少につながり、また筋肉を強化して、血液中のブドウ糖をより取り込みやすくする」からだと、ドゥルー氏は言う。
運動はまた、血流からブドウ糖を取り込む筋肉細胞の能力を高めてインスリン感受性を向上させる。
「だからこそ、私はいつも食後の散歩を勧めているのです」とボーン氏は言う。
米国糖尿病学会は、中程度の強さの運動を週に少なくとも2時間半、高強度の運動ならその半分の時間(1時間15分)行い、そこに週に2回以上の筋力トレーニングを加えることを推奨している。
食事と生活習慣
食事の内容を変えることもまた、「食後の血糖値の急上昇を抑え、消化を遅くすることによって」血糖値の改善につながると、ボーン氏は言う。
食事の改善点としてはたとえば、総カロリー摂取量を減らすことや、体内で血糖値を急上昇させる可能性がある白いパン、白米、白いパスタなどの精製された穀物の摂取を制限することなどが挙げられる。
「また、添加された糖分の摂取を完全にやめることも重要です。添加糖類はエンプティーカロリー(栄養価のないカロリー)であり、GI値(食後の血糖値の上昇度)が高いからです」とハムディ氏は付け加える。
トルティーヤ、クラッカー、麺類、一部のシリアル、トウモロコシやジャガイモといったでんぷん質の野菜などもGI値が高く、摂取を控えた方がよい食品に含まれる。
食物繊維とタンパク質の摂取量を増やすことも重要だ。
食物繊維はブドウ糖の吸収を遅らせ、満腹感を高める効果があり、タンパク質は筋肉量を増やすのに役立つ。
「加工度が低く、脂肪分の少ない肉を選ぶようにしましょう」とボーン氏は言う。
「また、1日にコップ8杯分の水を飲むことを心がけてください。水は腎臓が余分な糖を排出するのを助けます」
減量や食生活の変化に加えて、生活習慣の改善も欠かせない。「睡眠不足や過度なストレスは血糖値を上昇させます。1日7〜9時間は睡眠時間を確保し、リラックス法を実践してストレスを軽減しましょう」とボーン氏は話す。
これらすべてに取り組むことが「最良の結果につながります」と、米スタンフォード大学の内分泌学者で糖尿病の治療を専門とするサン・キム氏は言う。
2型糖尿病の逆転にかかる期間は
こうした多角的なアプローチの効果は十分に証明されており、ハムディ氏によると、ジョスリン糖尿病センターでは糖尿病の寛解に特化したプログラムが開発されているという。
「このプログラムに参加した患者の80%は、2年以内に糖尿病の寛解を達成しています」
また、糖尿病の逆転にそれほど長い期間がかからない人もいる。
「糖尿病を患う期間が短く、減量率が高いほど、よりよい結果が得られます」とハムディ氏は言う。
実際、2型糖尿病の発症リスクをもたらした元々の原因である余分な体重を減らせば、数日から数週間で血糖値が寛解レベルに達する可能性もあると、氏は述べている。
血糖値の急上昇が食生活によって引き起こされている場合には、食事の改善でも同様の効果が得られる。
「2型糖尿病と診断されてから日が浅い人は、食事を変えることで急速に血糖値を正常化できる可能性があります」とキム氏は言う。
「特に、1日に炭酸飲料を6本飲むような習慣を突然やめた場合などには、大きな効果が期待できます」
ただし、血糖値を健康的なレベルに戻すのは始まりに過ぎない。
糖尿病が寛解とみなされるのは、「血糖値が糖尿病の診断基準を下回る状態が、糖尿病の薬を使うことなく少なくとも3カ月間続いた場合です」とキム氏は言う。
つまり、寛解レベルの血糖値を達成したうえで、それを維持する必要があるのだ。
しかも、体重が大幅に増えたり、不健康な食生活に戻ったりした場合には再発の可能性もある。
「2型糖尿病は予防できるということを、くれぐれも忘れないでください」とブラウント氏は言う。
「予防こそが最良の薬なのです」
文=Daryl Austin/訳=北村京子