2026年09月14日

「あと何年、健康でいられるか」――ドラッカーが41年前に書いた、数字では消えない不安の正体

「あと何年、健康でいられるか」――ドラッカーが41年前に書いた、数字では消えない不安の正体
9/13(日) ダイヤモンド・オンライン

 日本人の平均寿命は長期的に延びており、日常生活に制限のある「不健康な期間」はむしろ縮んでいる。
それでも自分の病気への不安が消えないのはなぜか。

ピーター・F・ドラッカーは41年前、同じねじれをアメリカに見つけ、ドラッカー名著集5『イノベーションと企業家精神』の中で、これをイノベーションの機会として書き残していた。
数字と実感がずれる構造を、ここで問い直してみよう。
本連載では、膨大なドラッカーの著作を読み返し、その中から令和の現在に役立つ知を取り出して紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

● 不健康な期間は縮んでいる

 厚生労働省の簡易生命表によれば、2025年の平均寿命は男性81.35年、女性87.33年。
前年をどちらも上回った。

一方、健康上の問題で日常生活が制限されない「健康寿命」は、大規模な全国調査に基づき3年おきに算出されており、最新の公表値は2022年で男性72.57年、女性75.45年。同じ2022年の平均寿命(男性81.05年、女性87.09年)との差、つまり日常生活に制限のある期間は男性8.49年、女性11.63年で、これは公表されている中で最も短い。

 ところが、2022年の国民生活基礎調査で悩みやストレスの原因を尋ねると、「自分の仕事」「収入・家計・借金等」と並んで「自分の病気や介護」が男女とも上位を占める。実体は良くなっても、不安は減らない。

 この同じねじれを41年前に書き留めた本がある。
ドラッカー名著集5『イノベーションと企業家精神』だ。ただしこれは健康の本ではない。

 イノベーションの機会を7つに分けた本で、その第6が「認識の変化」、つまり人々のものの見方が変わることである。
ドラッカーはその実例として、アメリカ人の健康観を取り上げた。

● 健康ノイローゼという観察

 本書によれば、1960年代の初めからの20年間で、新生児の生存率や高齢者の平均余命、がん(肺がんを除く)の発生率や治癒率など、肉体の健康と機能に関わる指標は大きく改善されていた。そのうえで彼はこう続ける。

 ところが今日、アメリカ人は健康ノイローゼにかかっている。
 ――『イノベーションと企業家精神』より

 大事なのは、ドラッカーが人々の不安を不合理と切り捨てていない点だ。
彼はそれを事実として観察し、イノベーションの機会として数えている。

 そのうえで彼はさらに踏み込む。
この20年間でアメリカ人の健康に関して悪化したものがあるとすれば、それは健康と体形に対する関心の異常な増大であり、加齢、肥満、慢性病、老化への恐怖のほうだ、と述べるのである。
執筆当時から見て25年前なら、ごく小さな医療の進歩が大いなる前進とされた。
ところが当時すでに、大きな進歩でさえさして驚かれなくなっていた、とも書く。

● 半分入っているか、半分空か

 本書の第6の機会は、コップの比喩から始まる。
コップに「半分入っている」と「半分空である」とは量的には同じである。だが意味はまったく違い、とるべき行動も違う。

 認識の変化が起こっても実体は変化しない。意味が変化する。
 ――『イノベーションと企業家精神』より

 彼はこの命題を、もう一つの例で補強する。
本書によれば、当時のイギリスでは所得の配分はアメリカよりも平等で、3分の2がいわゆる労働者階級を上回る所得を得ていた。
それにもかかわらず、イギリス人の70%は依然として自らを労働者階級と見ている、とドラッカーは書いている。

 所得という実体が動いても、自分は何者かという認識は動かない。
彼は別の場所でこう書く。経済が変化をもたらすのではない、経済は関係さえしないかもしれない、と。
変わるのは実体ではなく意味である。

 そして意味が変わった瞬間に、機会が生まれる。

● 農家は貧しいと思っていなかった

 本書には日本の一場面も記録されている。
1954年か55年、日本のある家電メーカーの会長がニューヨークの会合で、日本は貧しくてテレビのような高いものは買えないと講演していたという。

 ところが松下電器産業(当時。現パナソニック)は、農家はテレビを買えないほど自分たちが貧しいとは思っていないという事実を受け入れた、とドラッカーは書いている。
本書によれば、当時松下より優れたテレビを開発していた東芝や日立は東京の銀座や大都市の百貨店で売っており、地方の農民にとってそこはお呼びでない場所だった。松下は農家を一軒一軒訪ねて売った。

 これは1955年前後の一場面についての記述であり、その後の各社の歩みとは切り離して読む必要がある
農家の所得という実体は、どの会社にとっても同じ数字だった。違ったのは意味の読み方だけだった。

 ドラッカーが記録しているのは、その認識の違いが売り方の違いを生んだということだろう。

● 定量化できないものを確かめる

 この連載では以前、予期せぬ成功をどう扱うかという話をした。
ドラッカーの体系では、予期せぬ成功や失敗はしばしば認識の変化を示す兆候と位置づけられている。
売れるはずのないものが売れたとき、動いたのは実体ではなく人々の見方のほうだった、というわけである。

 本書は、認識の変化は多くの場合定量化できず、できたとしてもその頃には機会とするには間に合わない、と述べる。だがそれは知覚できないものではなく、きわめて具体的で、明らかにし確かめることができる、と続く。
数えられないことと、確かめられないことは違う。

 健康指標は、実際に何が起きているかを教えてくれる。
だが、それをどう受け止めるべきかまでは教えてくれない。
指標が良くなっても不安が消えないのは、この2つが別のものだからだ。
いま自分の職場にも、指標は動いていないのに、受け止め方だけが動きつつあるものがあるかもしれない。
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2026年09月13日

高市首相の「消費税減税」が日本にトドメを刺す…人気取りの無責任政策で始まる「さらなる物価上昇」という悪夢

高市首相の「消費税減税」が日本にトドメを刺す…人気取りの無責任政策で始まる「さらなる物価上昇」という悪夢
9/11(金) プレジデントオンライン
情報法制研究所
事務局次長・上席研究員 山本 一郎

■内閣改造とアメリカからの「圧力」

 内閣改造の人事プランをめぐる報道が花盛りで、これはこれで大事なことなので皆さまも見物して楽しまれているところではないかと思います。

 人事の話を聞いていると総理が積極的に誰かをハントするというよりは、そもそも高市早苗さんのお陰で解散総選挙は勝てたので恩義はあるけど高市さんとは働きたくない面々も見えてきております。
というか、あからさまに高市さんから距離を置いている有力議員は高市さんの側も起用したくてもできないというのが正直なところです。

 特に、国対委員長の梶山弘志さんを動かそうとすると後任が見当たらないとか、少数の参議院が重しになって国会運営がねじれているのに党人事で参議院に総理があまり興味を示さないとか、割と面倒なことになっているのも事実です。
つまり、高市早苗政権の盤石な政権運営をするためにはしっかりとした骨格が必要だが、それを支えられるパーツが足りないように見えるというのが一番の問題となっているわけです。

 現在、その「骨格」に直接圧力をかけているのが、アメリカの財務長官・ベッセントさんです。
9月1日、20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議の記者会見でベッセントさんは、日本はリフレ政策をいますぐやめるべきだ、アベノミクスは終わったと明言しました。
物価目標がようやく視野に入った以上、次の局面へ移るべきだという理屈です。

■片山氏への「叱責」に近いやり取り

 リフレ派を自認する経済評論家などは「ベッセントさんは高市さんの政策を円安誘導や放漫財政、リフレ派として否定するものではなかった」などと釈明をしていましたが、改めてベッセントさんの意向を確認してみるとガッツリ円安路線を全否定し釘をさす内容であったため、政権は慌てて概算要求の中身の見直しを考えなければならない状態になったりして、てんやわんやであります。

 その点では、財務大臣・片山さつきさんへの厳しい視線は今回が初めてではありません。
今年1月のダボス会議でも、日本国債の急落が米国債市場に波及する局面で、両者のやり取りは近況報告というより叱責に近いものだったと現地関係者に受け止められていました。
ベッセントさんとはファーストネームで呼び合う関係と片山さつきさんは国内向けには豪語していますが、その内容を文字面通りに信じる人は日米筋では少ないのは間違いありません。

 8月30日にベッセントさんが日銀総裁・植田和男さんと会談した際のやり取りを米財務省が公表した文書には、円の過小評価を正すための断固たる対応を強く後押しするという趣旨の言葉が並んでいます。
しかし片山さん自身は、翌8月31日にベッセントさんと会談した直後、記者団に対して、秩序だった円相場は世界の金融市場の安定に不可欠であり、日米が引き続き協調して取り組むことで一致したと、当たり障りのない言葉にとどめています。

■米紙が報じた経済政策への不満爆発

 その後、9月1日になって、5月に来日した際の片山さんとの夕食会で2時間以上、高市政権の経済政策への不満をぶちまけていたという米紙ニューヨーク・タイムズの報道が表面化してしまいました。
9月3日には、同紙の報道について問われ「問いただされたことはない」と否定しましたが、私的な圧力から公式な要求へと、この3カ月半で確実に格上げされているわけです。

 市場はこれに素直に反応しました。
もともと7から8月にかけての円買い介入は、総額15兆円と過去最大になったと財務省が発表しましたが、その後、9月2日から4日にかけてドル円は5円を超える急速な円高となり、一時155円台まで進みました。
円高の材料には、ベッセントさんの発言に加え、片山さんや植田さん自身の発言、そして年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をめぐる思惑報道も重なったとされます。
要は、日本とアメリカの金融当局は然るべき信頼関係をもって日米で協調して円買い介入や政策調整をしますよと示したことになります。

■ベッセント発言は実弾の為替介入に匹敵

 片山さんは7月にも、年金基金による国内資産投資を後押しする考えを示し、その際もドル円が急落しました。
GPIFはおよそ400兆円規模の外国債券・外国株式を含む資産を運用する世界最大級の機関投資家です。
海外の為替ストラテジストの間では、GPIFが外国債券を売って日本国債を買う方向に舵を切れば、日本への資金環流という大きな流れの始まりを示すシグナルになり、円にも日本国債にも強気の材料になるとの見立てが語られています。

 実際にそこまで踏み切るかどうかは別として、片山さんの一言だけで市場がここまで反応してしまうこと自体、いまの為替相場がいかに神経質な状態にあるかを示しています。
つまり、ベッセントさんの発言そのものが、実弾の為替介入に匹敵するほどの威力を持ってしまっているということです。
そして、これらの円買い介入の原資が日本の外貨準備の相当な割合を占めるアメリカ国債の売却だったことも改めて判明しました。
ベッセントさんの日本への内政干渉とも取られかねない強い態度を示した背景には、アメリカ国債にまつわるさまざまな難題を解決するパーツのひとつが「過剰な円安状態の解消」にあったからに他なりません。

■長期金利が30年ぶりに3%台に

 米国債市場を守るという、切実な事情の背景として、日本の長期金利が9月1日、1996年以来およそ30年ぶりに3%台へ乗せたことも重要なポイントになります。
もちろん、世界的に見れば日本の金利はなお絶対的に低いという判断もあります。
他方で日本の政府債務残高は、国と地方を合わせた一般政府の総額で約1400兆円に達するわけで、長期金利が上がれば国債償還の利払いで30兆円、40兆円と罰ゲーム利息を支払わされることになります。
いきなり利払いが上がるわけではありませんが、国債を償還し再度調達するごとにこの金利が乗るわけですから、日本の財政にとっては一大事です。

 そして、日本国債の利回りが十分に魅力的な水準まで上がれば、米国債を保有してきた日本の機関投資家が資金を国内へ戻す「ホームバイアス」が強まりかねません。
日銀の植田総裁は8月末のジャクソンホール会議を欠席し、タカ派として知られる審議委員・田村直樹さんを代わりに派遣しており、市場はこれを警戒材料として受け止めました。
9月17日、18日に開かれる次回会合では、0.25%の利上げが8割方織り込まれています。
片山さんの留任は、単なる政権の骨格維持というより、この綱引きの最前線に立てる人材を代えない、代える相手もいまのところいないという判断でもあるのだと思います。

■高市政権の手足はすでに縛られている

 もっとも、この状況を過度に悲観する必要はないという見方もあります。
長期金利3%という水準は、バブル崩壊直後の1990年代と比べればなお低く、超低金利からの正常化そのものはむしろ健全だと捉えるエコノミストも少なくありません。
ベッセントさんの発言についても、日本一国を狙い撃ちにしたものではなく、世界は借金まみれであり成長によってその重みを薄めるしかないという、トランプ政権自身の経済哲学の延長線上にあるという整理もできます。世界的に金利が上がっていますしね。

 とはいえ、そうした理屈の是非とは別に、市場が実際にどう反応するかという一点において、高市政権の手足はすでに縛られ始めているというのが実情でしょう。
しかも厄介なのは、ベッセントさんの求めに応じて日銀が利上げのペースを速めれば速めるほど、高市政権自身の財政運営も苦しくなるという点です。
長期金利が上がれば、国債の利払い費はそのまま膨らんでいきます。
外圧をかわすために金利上昇を受け入れることが、消費減税の財源をひねり出そうとしている当の財政運営を、さらに圧迫するという、なんとも皮肉な悪循環がそこにはあるのです。

■「外圧」が看板政策と真正面からぶつかる

 日本の政治には、かねて「外圧」という言葉があります。
国内だけでは決めきれない路線転換を、外からの圧力を利用して進めるという構図です。
ベッセントさんの発言が、高市政権にとって単なる迷惑な横槍にとどまらず、むしろ財政規律派の発言力を強める追い風として働く可能性もゼロではありません。
ただし今回厄介なのは、外圧が高市さん自身の看板政策と真正面からぶつかっている点です。

 また、高市さんには、外からの圧力だけでなく、自らの公約という内側からの制約もあります。
飲食料品の消費税率を来年4月から2年間、8%から1%に引き下げ、給付付き税額控除と組み合わせて実質ゼロにする――この看板政策は9月5日、閣議決定されました。
表明からわずか6日という異例の速さです。大丈夫ですか総理。
しかし、財源をどうするかという最も重い宿題は、まだ解けていません。
年間およそ5兆円、2年でおよそ10兆円規模とされる税収減について、高市さんが繰り返し強調してきたのは「特例公債には頼らない」という一点です。

 地方側も無関係ではいられません。
総務大臣・林芳正さんは、この減税による地方の減収がおよそ1兆6000億円規模になるとの試算を国会で明かしています。
自民党の税制調査会長・小野寺五典さんは、党の会合を終えた際、出席者から「社会保障に影響が出ないような財源で対応してほしい」との注文がついたことも明かしました。
財源の中身は、9月に固める税制改正大綱と、年末の予算編成にすべて先送りされた形です。

■赤字国債を増やさずに穴を埋める方法

 さらには、中国を念頭に置いているとされる防衛費増額による財源も未決です。
社会保障も団塊の世代の後期高齢者入りのころをピークにまだまだ増えていきます。
しかし、ここで金利があがると利払いが増えて財政がさらに痛むことになるんですよ。
なので、結果的に、インフレがどうだという以前の問題として財源問題と、それを支える日本経済のあり様についてはちゃんと考えなければならない局面にあります。

 消費税減税だけでも、赤字国債を増やさずに年5兆円規模の穴を埋めるとなれば、答えは二つに一つしかありません。
歳出のどこかを削るか、伸びを抑えるかです。
日本総合研究所は9月1日、閣議決定されたばかりの骨太方針と日本成長戦略について、対象分野があまりに広く、政策資源が分散する懸念があると指摘し、重点分野を絞り込んだ選択と集中が不可欠だと注文をつけています。

 AI・半導体をはじめとする戦略17分野に官民で370兆円超を投じるという壮大な看板の裏で、財源というごく現実的な制約が、その中身を絞り込むよう静かに圧力をかけ始めているのです。
政策担当者はそんなことは百も承知でしょうが、広げた風呂敷を畳むのは政権の責任であることは言うまでもありません。どうするつもりなんでしょう。

■「大盤振る舞いできない」という結論

 概算要求の段階では、成長や危機管理に関わる分野であれば上限を設けない「強く豊かな日本」投資枠という、いわば青天井の仕組みまで新設されました。
看板の掲げ方だけを見れば、絞り込みとは逆の、割と盛大な拡大路線にすら映ります。
しかし、看板をどれだけ大きく掲げても、年末の予算編成で財務省の査定を経て実際に金額がつく段階になれば、消費減税の穴埋めという最優先事項が先に財源を押さえてしまうことになります。

 その結果として、他の分野にしわ寄せが向かうのは避けがたい構図です。
外からはベッセントさんが金融緩和の縮小を迫り、内では自らの減税公約が財政出動の絞り込みを迫る。
高市さんは、いま二つの方向から、同じ結論――「これ以上の大盤振る舞いはできない」という結論へ押されていることになります。

 この構図は、実体経済の統計にもすでに顔をのぞかせています。
日本政策投資銀行が6月にまとめた調査では、資本金10億円以上の大企業の2026年度設備投資計画は前年比19.7%増と、強気な内容でした。
製造業はAI・データセンター関連投資の拡大で二桁増の計画、非製造業も送配電網投資の継続や原子力関連投資の本格化、都市機能強化やインバウンド対応などで大幅増となっており、いずれも政府の戦略分野と重なる領域です。
中東情勢の不確実性を受け、サプライチェーンもコスト重視から、調達先の分散を進める「レジリエンス重視」へと軸足を移しつつあります。やらなければならないことは、確かに山積みです。

■「景気悪化+物価上昇」の最悪シナリオ


 ところが、帝国データバンクが5月に公表した、中小企業を多く含む全国2万社超への調査では、まったく違う風景が広がっています。
2026年度に設備投資計画が「ある」企業は56.7%にとどまり、3年連続で低下しました。
投資を予定していない企業の半数が理由に挙げたのは「先行きが見通せない」ことで、2025年度はトランプ関税、2026年度は中東情勢の悪化が、その不透明感の主因とされています。
デジタル投資に前向きな企業の割合も、大企業の51.3%に対し中小企業は31.4%にとどまり、20ポイント近い差がついています。

 設備投資に踏み切る企業でさえ、資金の6割近くは自己資金でまかなっており、補助金・助成金を活用したくても「新技術・新分野への進出が条件になっていて、既存事業の拡大を狙う自社には使いにくい」といった声も寄せられています。
帝国データバンクはこの調査結果を踏まえ、投資の停滞が長引けば、老朽化した設備でのコスト増と生産性低下を通じて企業の競争力が弱まり、投資と雇用の抑制が需要縮小を招いて、景気が悪化しながら物価が上昇するスタグフレーションに陥りかねないとまで警鐘を鳴らしています。

■大企業と中小企業で「二極化」が鮮明に

 つまり、いまの日本経済は、政府が重点を置く一部の戦略分野と大企業に投資が集中する一方、その他大勢の中小企業は先行き不安から投資に踏み切れずにいるという、二極化した姿をすでに見せているのです。
財源難を理由に政策の的をさらに絞り込めば、この二極化はいっそう鮮明になるでしょう。
恩恵を受けるのはAIやデータセンター、エネルギー関連といった、もとから勢いのある分野に集中し、先行き不安を抱える中小企業への目配りは、後回しにされかねません。
地方への配慮を欠かせない連立相手・維新の顔を立てながら、限られた財源を成長分野に厚く配分するという綱渡りを、高市政権はこれから同時にこなしていかなければならないのです。

 こうして見ていくと、今回の内閣改造で政権の骨格をほとんど動かさなさそうな高市さんの判断には、腑に落ちるものがあります。
財務大臣・片山さん、外務大臣・茂木さん、防衛大臣・小泉さん、官房長官・木原さん、そして党の副総裁・麻生太郎さんと幹事長・鈴木俊一さん。いずれも留任・続投の方向とされています。
鈴木さんは麻生さんの義弟にあたり、党内で唯一の派閥を率いる麻生さんの支援を維持することは、来年秋に予定される総裁選をにらんだ布陣でもあるとされます。

■この先、数カ月が高市首相の正念場

 派手な人事で支持率回復を狙う場面ではない、というのが官邸の判断なのでしょう。むしろいま必要とされているのは、対米交渉の蓄積を持つ片山さんのような実務家であり、限られた財源のなかで政策の優先順位をつけ直す、地味で骨の折れる作業に耐えられる体制なのだと思います。
看板を替えるより、看板を守り抜ける人を替えない――今回の人事の本質は、その一点に尽きるのではないでしょうか。

 とは言え、枝葉のところの改造で済ませるのならこの時期に人事やる必要って特になかったんじゃないか問題は見え隠れします。
総理がどうしたいのか、イマイチよくわからないんですよね。

 今回、内閣改造が想定される9月16日から18日という日程は、日銀の金融政策決定会合が開かれる9月17日、18日とほぼ重なります。
政治の日程と金融政策の決定が同じ週に集中するのは、偶然にしてはできすぎています。
改造直後には総理自身が国連総会出席のため訪米する予定もあり、そこでベッセントさんとの間接的なせめぎ合いが再燃する可能性も十分にあります。
さらに秋の臨時国会では、消費減税の関連法案の早期成立も控えています。財源の具体像がどこまで国民に示せるかは、法案審議そのものの行方も左右するでしょう。

 外圧と内なる財源の壁に挟まれた高市政権が、「責任ある積極財政」という看板をどこまで掲げ続けられるのか。片山さんという同じ顔ぶれを対米交渉の最前線に据え続けたこと自体が、高市さん自身、この先の数カ月がこれまでとは質の違う正念場になると見ている証拠なのかもしれません。
その答えの一端は、9月半ばのこの1週間に凝縮されることになりそうです。
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2026年09月12日

残業「月100時間」“実質合法化”? 労基署“45時間超NG”の一律指導見直しで「過労死増える」労組が危ぶむ理由

残業「月100時間」“実質合法化”? 労基署“45時間超NG”の一律指導見直しで「過労死増える」労組が危ぶむ理由
9/10(木) 弁護士JPニュース

過労死ラインを超える残業を、労働者が「正直に申告できない」−−。
労働組合の担当者は9日、都内で開かれた会見でそう訴えた。
体調を崩したのを機に、月80時間超の残業を申告した組合員が、その直後に"業務改善"の名目で退職コースに乗せられたという。
同じ職場では、1年間に28人が精神疾患で1か月以上の休職に追い込まれていた。

会見は、労働団体「雇用共同アクション」が、労働時間規制の緩和に反対する意見書を厚生労働省に提出したのを受けて開かれた。
国の審議会で進む労働基準法(労基法)の見直しをめぐり、審議のさなかにある今の実態を伝える場となった。

「多勢に無勢の状況を強いられた」

意見書を出したのは、全国労働組合総連合(全労連)や日本マスコミ文化情報労組会議などでつくる「雇用共同アクション」だ。
8月26日付で、上野賢一郎厚労相と、労働政策審議会(労政審)労働条件分科会の委員に宛てて提出した。

問題視するのは、審議の"入り口"である。
労働時間法制の見直しは、政府・日本成長戦略会議の「労働市場改革分科会」がまとめた「とりまとめ」を受け、労政審の労働条件分科会が7月14日から審議を開始した。

だが、同アクションは、その労働市場改革分科会の構成が、公益・労働・使用者が対等に話し合う「三者構成主義」に反すると指摘する。

構成員11人のうち使用者側が5人で、労働者側はわずか1人。
「たった一人の労働者代表が多勢に無勢の状況を強いられた」と意見書は批判している。

「裁量」の名の下で、残業代が消える

裁量労働制とは、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす「みなし労働時間制」の一種である。
会見に出席した雇用共同アクションの土井直樹事務局長は「制度の目的は、労働者に裁量を与えることではない」と述べ、"残業代(割増賃金)を払わずに済ませるための仕組み"だと主張した。

実労働時間の管理が使用者の手を離れれば、成果が出るまで時間の制限なく働かされても、労働者は正直に時間を申告しづらくなる。
冒頭の組合員のように、正直な申告が人事評価や退職勧奨に直結しかねないからだ。
土井事務局長は、「業務改善プログラム(PIP)」で従業員を退職へ追い込む外資系企業の手法にも触れ、「労働者が本当の労働時間を申告できない」と語った。

“業務委託”にすり替え、辞めたら42万9000円を請求

会見に参加した労組の担当者からは、実態は会社の指示で働く労働者なのに、契約だけ「業務委託」にして、労基法や社会保険の保護から外す手口も報告された。
あるフランチャイズ店では、たった1人の店長が朝の鍵開けから夜の鍵閉めまで拘束されながら、契約は業務委託(請負)とされていたという。

本人が辞めると、会社は研修費として42万9000円を違約金条項に基づいて請求。
3月分の委託料が全額差し引かれ、その月の収入はゼロになった、と担当者は説明した。
なお、このケースでは最終的に請求撤回と返金で決着したという。

月100時間まで“合法的に”働かせる指導に?

もう一つの焦点が、厚労省が8月19日に発表し、9月1日から始まった監督指導の見直しである。
労働基準監督署はこれまで、月45時間を超える残業が続く職場に是正を促してきた。
月45時間超の時間外・休日労働は脳・心臓疾患のリスクを高める水準とされ、2018年の労基法改正で「限度時間」と位置づけられている。

ところが見直しでは、この一律の指導は改められることになっている。
7月に閣議決定された「骨太方針2026」などを踏まえた対応だが、労使が同数で参加する労働条件分科会の審議を経ずに決められた、と意見書は批判した。

土井事務局長は「長時間労働を"減らす"指導から、"合法的にできる"ように助ける指導に変わりかねない」と指摘。

「特別条項(=繁忙期などに45時間の原則を超えて残業させられる労使協定)を結べば、 月100時間近くまで残業させることも可能となり、それが新たな"基準"になれば、過労死はむしろ増える」と続けた。

「労働条件を緩和させる方向に流れるのではないか」

意見書が最も強く問題視したのは、労使の合意で法律の最低基準を下回れるようにする"デロゲーション"(労働基準の調整・代替)の拡大だった。


憲法27条2項は「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定しており、意見書は法律ではなく企業ごとの労使合意で労働条件を決める仕組みは「憲法に反する」と主張。

土井事務局長は「デロゲーションなど、労働条件を緩和させる方向に今後国の議論が流れていくのではないかと強く懸念している。
厚生労働省は労働者保護の観点から、労基法を厳密に適用していくとともに、労働時間短縮を進めるべきだ」と訴えた。

弁護士JPニュース編集部
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