「劣勢の相撲を逆転できる」安青錦、来場所で綱取りに求められる星数は…「周りの力士が相撲を変えない限り独走する」【音羽山親方の初場所総括】
2/1(日) デイリー新潮
2021年3月場所で現役を引退し、2年後の12月に東京都墨田区内に音羽山部屋を創設した71代横綱・鶴竜こと、音羽山親方。
現在は、関脇・霧島(元大関)を筆頭に、10人の弟子の指導にあたるほか、昨年春場所からは勝負審判を務め、土俵下で厳しい目を光らせている。
昨年九州場所では、弟子の竜鳳が序二段優勝。今回の初場所でも、光星竜が序二段優勝と活気づく音羽山部屋を引っ張る親方に、初場所の土俵をあらためて振り返ってもらった。【武田葉月/ノンフィクションライター】
安青錦は劣勢の相撲を逆転できる
――今場所も優勝争いが混沌として、千秋楽で3敗の新大関・安青錦関と前頭・熱海富士関が共に破れると、横綱・大の里関、関脇・霧島関も含めての優勝決定戦になる可能性もありました。
結局、安青錦関と熱海富士関の決定戦に持ち込まれたわけですが……。
音羽山:
「最後の最後まで優勝力士が決まらない」という展開は、ファンの心を惹きつけますよね!
実際、優勝決定戦の時の両国国技館はボルテージが最高潮になり、両者に声援が飛び交っていました。
――その決定戦では、立ち合いから押し込んだ熱海富士関が有利な場面も見られましたが、安青錦関の首投げが見事に決まり、連続優勝となりました!
音羽山:
最後は、安青錦の相撲の巧さが出たというところでしょうか?
それにしても、新大関で優勝というのは、すばらしいと思います。
白鵬関(元宮城野親方)以来20年ぶりと聞きました。
安青錦は毎場所危ない場面を「技」で勝ち切る強さがあります。
今場所2日目の義ノ富士戦の首投げもしかりです。
劣勢の相撲を逆転できるから、勝ち星が挙がっていくんですね。
周りの力士が相撲を変えない限り独走
――来場所は、早くも「綱取り」がかかる場所になりますね。一気に昇進となりますでしょうか?
音羽山:
そうですね。
大の里の出世も早かったけれど、安青錦もこの勢いのままに昇進しようと狙っていると思います。
来場所も対戦する力士たちは、今場所とさほど変わらないメンバーです。
周りの力士が相撲を変えない限り、安青錦が独走しますよ。
たとえば豊昇龍。
これまで、本割、決定戦とも、安青錦に一度も勝っていなくて、対する安青錦は自信をもって取っています。
それと真逆で、大の里は今場所も一方的な相撲で安青錦を破っている。
安青錦も来場所こそは、別の手を考えてくるでしょうしね。
安青錦は星で言えば、12、13勝以上挙げること。
準優勝以上の成績であれば、横綱昇進の資格は出てくるでしょうね。
熱海富士は土俵際で冷静になるべきだった
――2回目の優勝決定戦出場となった熱海富士関の相撲はどう見られましたか?
音羽山:
熱海富士は、持ち前のパワーで小柄な安青錦を持っていきましたが、もしも土俵際で冷静になって、一旦腰を下ろして押せば、逆転を食らうことはなかった。
「土俵際、逆転あるぞ!」ということは頭に入っていなかったのかな?
体は十分です(187センチ、192キロ)。今、熱海富士は192キロなの?
私にはそれ以上体重があるように見えますが(笑)、もう少し相撲の内容を考えて取れば、伸びていく要素はあると思います。
「大関復帰」を目指す霧島の底力
――さて、音羽山部屋の霧島関が、先場所に続いて11勝を挙げましたね!
音羽山:
先場所くらいから、体の状態がよくなってきたことが大きいですね。
先場所の11勝はかなり自信になっていると思うし、そもそも地力はあるのだから、自信を持っていかないと。
彼の場合、「モチベーションの維持が大切」と以前私が言いましたが、今場所関脇の地位での11勝は、春場所のモチベーションにつながりました。
霧島の目標は「大関復帰」です。3月の大阪場所で結果を残せば、その目標がかなり近づいてくるはずです。
――前回、親方が「次期大関候補」に挙げた義ノ富士関。
2横綱を破った時は、期待度がかなり高まったのですが……。
音羽山:
中盤で黒星が重なって、「あわや負け越しか」とさえ思いましたが、14日目、千秋楽と2連勝してなんとか勝ち越しました。彼も熱海富士と同じで、前に出る勢いというものはすばらしいのですが、ただ前に出るだけじゃダメなんです。
冷静になる瞬間が必要なんです。
相撲を甘く見ているわけじゃないと思いますが、今場所の中盤戦は、今後のためにいい勉強になったと思いますよ。
天覧相撲には独特の緊張感がある
――中日8日目には、6年ぶりに天皇ご一家が相撲観戦にいらっしゃいました。
ところが、この日に限って、横綱、大関全員が黒星。
打ち出し後は、ご一家と横綱大関たちがお茶を飲んで懇談するという交流もあったそうですね。
音羽山:
勝負ですからね。揃って負けてしまうこともあるわけですよ。残念ですが、仕方ありません。それに、今の横綱、大関は若いので、天覧相撲の経験はないんですね。
私は2007年から5回ほど(2回は横綱としての土俵)天覧相撲を経験しているのですが、独特のムード、緊張感があるんですよ。
でも、私の時代は、天皇ご一家とお言葉を交わすなどという機会はありませんでした。
正直、「今の横綱大関はいいなぁ〜」と思います(笑)。
全員負けたこともあって、なかなか会話が弾まなかったと聞いていますが、陛下がいろいろご質問されたことで、場が和んだそうですね。
序二段で連続V 音羽山部屋はなぜ強い
――先場所に引き続き音羽山部屋から序二段優勝力士が出ました。
光星竜さんは、親方の井筒部屋の兄弟子、元幕内・安芸乃州関の長男で、アメリカ・ネバダ州立大学で宇宙工学を学んでいたという経歴を持っています。
音羽山:
光星竜はもともと柔道をやっていたので、体と筋肉は申し分ないし、組んでからの技はあるのですが、まだ、力士の体になっていません。
相撲で大切な四股、すり足、テッポウという基本を徹底的にやらせています。
「今後どうしようか?」と考えている時に、父親が尊敬していた寺尾関(錣山親方)が亡くなられたんですね。
「光星」という本名も、寺尾関が考えられたもので、幼い頃からかわいがってもらっていた寺尾関の死で、彼の気持ちにスイッチが入ったんですね。
これまでほとんど経験のない相撲の世界に飛び込んだんです。
(入門の)年齢的にもギリギリだったこともあって、覚悟を決めての入門だったと思います。
ウチの部屋は若い力士が多くて、先場所序二段の優勝決定戦を争った、竜鳳、鶴英山という学生相撲経験者もいる。
お互いライバル意識を持ってやっていることが、刺激にもなっています。
今、25歳。若くはないので、本人もしっかり目標を持って相撲に取り組んでいます。
今後も厳しく指導していきたいと思います。
武田葉月
デイリー新潮編集部

