「徹夜は効果なし」睡眠研究者が解説 記憶の固定には学習した日に6時間以上眠ることが不可欠
3/5(木) AERA DIGITAL
睡眠中に記憶の固定、強化が行われていると言われ、眠ることが記憶に大きく関係しています。
名古屋市立大学教授の粂和彦氏による新刊、朝日選書『脳がないのにクラゲも眠る 生物に宿された「睡眠」の謎に迫る』(朝日新聞出版)では、睡眠が記憶に重要だということを示した有名な研究を紹介しています。
同書から抜粋・再編集して、「睡眠と記憶の関係」についてお届けします。
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睡眠と記憶の関係を見ていきます。
睡眠中に記憶の固定、強化が行われているという仮説は古くからあり、1920年代ごろからさかんに研究されましたが、記憶後の体験による影響や、被験者の覚醒の状況、疲労の度合いなどさまざまな要因が関係するため、本当に記憶が強化されているかを実証するのは、困難でした。
睡眠が記憶に重要だということを示した有名な研究は、ハーバード大学メディカルスクールのアラン・ホブソン教授と認知神経科学者ロバート・スティックゴールド教授らによる2000年の論文です。
この研究では、これまで行ったことがない初めてのタスクを初日に60分から90分ほどかけて1000回から1500回ほどトレーニングしてもらいます。
具体的には、コンピュータの画面上に、19×19個の横棒を並べたものを短時間見せます。
その中の数個が斜めになっているので、これが縦に並んでいるか、横に並んでいるかを、一瞬の間に見分けて答えてもらいます。
図の黒い棒で示すのは、練習前後に普通に生活して夜も眠ってもらったグループで、興味深いことに、練習をした直後は見分けるスピードは最初とほとんど変わらないのですが、一晩して翌日になるとスピードがぐっと速くなります。
と言っても、練習後1日目の棒が示すように、1回あたりでは10ミリ秒ですから、0・01秒程度の違いですが、確実に上手になっています。
そして練習は初日にしかしていないのに、2日目、3日目、4日目のグループは、1日目のグループよりもスピードが速く、4日目のグループの成績は20ミリ秒以上早くなって、一番良かったのです。
練習の効果は7日目のグループでもちゃんと残っていて、長期記憶が成立します。
一方、白棒で示すグループは、練習した日の夜に、一晩徹夜してもらいます。
翌日は眠いので反応速度が落ちても当然ですが、その日以後はきちんと寝てもらって、眠気がなくなる練習後3日目に試験をしたところ、練習の効果が全く現れませんでした。
せっかく練習したのに効果が消えたのです。学習当日に断眠すると忘れてしまうということです。
スティックゴールド教授は、新しい知識や技法を身につけるためには、覚えたその日に6時間以上眠ることが不可欠だと考えています。
また、海馬に電極を埋め込んで神経活動を解析する手法の進歩によって、マサチューセッツ工科大学のマット・ウィルソン氏らが2001年に報告したのが、「記憶のリプレイ」という現象です。
ラットが迷路を学習したあとの睡眠中に、学習中と類似の神経活動が再生されていたのです。ところがレム睡眠を阻害すると、学習が阻害されてしまいました。
この頃は記憶にはレム睡眠のほうが重要だと言われていたので、レム睡眠時のリプレイが注目されましたが、ノンレム睡眠時にも同じようなリプレイが起こります。
例えば、歌を学習するキンカチョウやジュウシマツなどの鳴禽(めいきん)類でも、歌を制御する神経核で、ノンレム睡眠時にリプレイが起こることが観察されています。
興味深いことに、リプレイ中の再生速度は早送りです。起きているときに迷路を学習する際は移動時間がかかりますが、寝ているときは実際に動く必要はなく思い出すだけなので、海馬で5倍速から10倍速、大脳皮質でも2倍速から5倍速で情報が再生されます。
記憶と睡眠については、その後、多数の研究が行われました。
ノンレム睡眠中に海馬で記憶が圧縮されて、「リップル」と呼ばれる大脳皮質に届く脳波が出て、情報が大脳皮質に送られ保管されることもわかってきています。
※朝日選書『脳がないのにクラゲも眠る 生物に宿された「睡眠」の謎に迫る』(朝日新聞出版)より
粂 和彦(くめ・かずひこ)

