2026年05月16日

不倫した芸能人を激しく叩く人が「絶対に認めたくない」こと…池上彰が指摘する、歪んだ正義の正体

不倫した芸能人を激しく叩く人が「絶対に認めたくない」こと…池上彰が指摘する、歪んだ正義の正体
5/15(金) ダイヤモンド・オンライン
池上 彰氏 

 芸能人の不倫報道が出るたび、ネットは激しいバッシングに包まれる。
「許されない行為だ」という声は一見もっともに見えるが、その言葉はどこまで正当な批判なのか。

池上彰は、自身に向けられた殺人予告の経験を通じて、そこにある共通の構造に気づいたという。
※本稿は、ジャーナリストの池上 彰『法で裁けない正義の行方』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです

● ネット上の誹謗中傷が ここ十数年で急増中

 インターネット上やSNS上での誹謗中傷が後を絶ちません。
インターネットでは匿名で自由に発信できるため、気が大きくなって、面と向かっては言えないような酷い言葉も平気で書き込んでしまう人が多いのです。
違法・有害情報相談センターへ寄せられた相談件数は、2010年度の1337件から、24年度は6403件と、十数年の間に急増しています。

 恋愛リアリティショーに出演していた女性が誹謗中傷によって自死する事件(2020年)なども起き、誹謗中傷に対する法の整備が進みました。
インターネット上で誹謗中傷をするなど他人を攻撃することは、法律違反なのだということを、発信者は肝に銘じなければいけません。

 SNS上で根拠のない誹謗中傷を投稿すると、名誉毀損罪や侮辱罪などに問われたり、高額な慰謝料を請求されたりします。侮辱罪については、インターネット上の誹謗中傷など悪質な侮辱に厳正に対処するため、22年に刑法が改正され、法定刑が「拘留または科料」から「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」へと引き上げられました。

 また25年4月、通称「情報流通プラットフォーム対処法」(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)も施行されました。

 これまで発信者の情報開示に手間がかかっていたことの反省から、同法では大手SNSなどのプラットフォーム事業者の免責要件を明確化し、誹謗中傷の被害者に対して発信者情報の開示を規定し、削除対応の迅速化、運用状況の透明化を求めています。

 現在は、誹謗中傷をしてきた匿名アカウントの発信者を素早く特定することが可能になっています。
特定後、警察に捜査を依頼するなどして、厳しく対処していくことが大切でしょう。

● 池上彰が受けたのは 誹謗中傷を超えた殺人予告

 私は誹謗中傷どころか、殺人予告を受けたことがあります。

 ある日私が定期的に出演しているテレビ朝日の番組制作会社宛てに、脅迫メールが送られてきました。
また翌日にはインターネットの掲示板に殺人予告が出たのです。
私は全然知らなかったのですが、警視庁がネット上でパトロールをしていて、私に対する殺人予告を見つけたようです。

 警視庁から、「ネット上の匿名アカウントがあなたへの殺人予告をしていますが、どうしますか」と尋ねられたので、被害届を出したところ、発信者はすぐに突き止められて逮捕されました。

 静岡県在住の40代男性で、私とはまったく面識のない人物でした。
私がテレビでロシアを批判的に紹介したのが許せないと怒っていたようです。
ロシアによるウクライナ侵攻前、2018年のことでした。
逮捕前に各社が警察から情報を得て、その容疑者が逮捕される瞬間を撮影し、ニュースで放送していました。

 被害者である私に、検察官が「正式な裁判にしますか、それとも向こうが罰金を払って和解にしますか?」と尋ねてきました。裁判外の和解をするかどうかということです。
これ以上時間をかけてもしょうがないし、容疑者は名前や顔が報道されて社会的な制裁を受けているため、「もういいですよ」と10万円を払ってもらうことで和解しました。

 この事件で私がお願いした弁護士が、過労死問題の弁護団の事務局長を務めているため、受け取ったお金はその弁護団に全額寄付しました。

● 歪んだ正義感が暴走し 言葉の暴力に発展

 SNSで誹謗中傷をする加害者は、50代男性が最多だといいます(弁護士ドットコム株式会社の調査による、22年)。
男性のほうが多いものの、女性の加害者も一定数います。

 また誹謗中傷を行った動機については、「正当な批判・論評だと思った」(51.1%)が最も多いものでした。
次いで「イライラする感情の発散」(34.1%)、「誹謗中傷の相手方に対する嫌がらせ」(22.7%)、「虚偽または真偽不明の情報を真実だと思いこみ投稿した」(9.1%)といった回答が続いたそうです。

 動機の1位である「正当な批判・論評だと思った」人は、すなわち「歪んだ正義感」を持っている人だといえます。
「自分が正しい、相手のほうが間違っている」と、無自覚に誹謗中傷という言葉の暴力を振るってしまったのです。

 またここで動機として挙げられてはいませんが、そもそも根本的には、「暇だから」あるいは「自分の意見に多くの人が反応して、バズったり拡散されたりすると、自己顕示欲が満たされるから」といった理由もあるでしょう。

 「本物の正義感」を発揮することで、SNSというツールを使って社会の理不尽を容易に告発できるようになったのは、SNSのいい面です。
しかし「歪んだ正義感」で、自分の意見を正義だと信じて相手に押し付けようとする人たちが増加しているのは、SNSの悪い面といえます。

● 芸能人の不倫を 叩いていい道理はない

 正義の基準が、人によって異なるのは普通ですが、「自分の正義」をむやみに人に振りかざしてはいけません。
正義を振りかざしそうになったら、「自分に人を裁く権利はあるのか」と自問自答すべきでしょう。

 『新約聖書』に、「罪のない者が石を投げよ」という言葉があります。

 イエス・キリストが生きていた時代の中東地域には、不倫をした女性への罰として、みんなで石を投げて殺すというものがありました。
このときイエスが、「この中で罪なき者、石を投げよ」と言ったのです。
つまり、他人を批判し罰するのなら、自分は一切の罪を犯していない聖人なのかと自問自答すべきである、ということです。
イエスのこの言葉を聞いた途端、みんなぞろぞろといなくなり、女性は助かるのです。

 最近は芸能人の不倫報道などがあると、ネット上で過剰なまでにバッシングが起きるようになりました。
けれど、不倫は現在、刑事上の犯罪ではありません。

 明治時代に始まった旧刑法には「姦通罪」があり、既婚女性が不貞行為をした場合は、その既婚女性と相手の男性が6カ月以上2年以下の懲役を受けました。
その一方で既婚男性が不貞行為をした場合には罰せられないという、男女不平等な内容だったのです。
姦通罪は、戦後の1947年に廃止されました。

 正式に結婚しているのに別の女性とも結婚をする「重婚」は、現在も民法で禁止されている犯罪ですが、既婚の人が配偶者以外と性的関係を持つこと自体は、倫理観は問われるけれども犯罪ではありません。
さらに言えば、それは当事者同士の問題です。

 不倫された側が、配偶者やその不倫相手に、精神的苦痛を味わったことに対しての責任を民事裁判で訴えて慰謝料を請求することは可能です。
これは不貞行為が、民法709条の「不法行為」に該当するとされているからです。

 昨今、不倫報道をされた芸能人は、コマーシャルに出ていれば降板となり、映画に出ていれば公開日が延期になり、テレビドラマに出ていれば出演シーンをカットされ、その後のドラマや映画のキャスティングもされなくなるなどと、社会的制裁を受けています。

 これほどの制裁を受けながら、見ず知らずの人々から多くの誹謗中傷もされてしまう、これは果たして「正義」なのでしょうか。
「自分の正義」を振りかざす人たちによる、行き過ぎた行動ではないでしょうか。

● 不倫コンテンツが流行るのは 憧れの気持ちがあるから?

 不倫ドラマや不倫小説、楽曲などは、定期的にヒットしています。
ドラマ「金曜日の妻たちへV・恋におちて」やその主題歌「恋におちて-Fall in Love-」(歌:小林明子)、ドラマと主題歌が同タイトルである「ポケベルが鳴らなくて」(歌:国武万里)、渡辺淳一の小説が大ヒットし映画化・ドラマ化された「失楽園」、ドラマタイトルが2014年新語・流行語大賞の候補にもなったドラマ「昼顔」などは、大きな話題になりました。

 いつの世もこれほど不倫ドラマがヒットするのは、みんな心のどこかに、不倫に対する憧れがあるからではないでしょうか。

 憧れがあるけれど、倫理的にはやってはいけないからやらない。それなのに有名人がやっている。
すると内心で羨ましいと思いつつ「許しがたい」という感情が湧いてきて、過度なバッシングをしてしまう、というわけです。

 かつて「不倫は文化」という言葉が日本で話題になりましたが、海外ではまさにその通りかもしれません。

● 不祥事を笑いに変えていた フランスと昭和の日本

 2012年から17年までフランス大統領だったオランド氏は、事実婚をしていたのに、在任中の14年に女優との密会が報じられ、世界中で騒がれました。
しかし本人は、「プライバシーの侵害を遺憾に思う」と発表するだけでした。
フランスでは民法で「個人の私生活は尊重されるべきである」と定められているのです。

 そして、スクーターに乗って彼女のアパルトマンに向かうオランド大統領の写真がゴシップ誌に載ると、国民は「大統領、情熱的で素敵!」と盛り上がり、特に問題視されませんでした。
さらには「スクーターなんかで行くから、顔バレしてしまうんだよ」などと反応し、フランスのレンタカー会社は「大統領、次に彼女に会いに行くときには我が社のレンタカーをお使いください」という広告まで出しました。
日本の反応とは全然違いますね。

 1981〜95年にフランス大統領だったミッテラン氏は、妻以外の女性と家庭を持っていることが暴露されたときに、記者たちから「大統領は結婚しているのに、別の女性との間に隠し子がいるんじゃないですか?」と追及されたら「それで?」と一言答えただけで、あっという間に幕引きしました。

 とはいえ日本も、昭和の政治家はおおらかでした。
鳩山一郎、大野伴睦らとともに自由民主党の結党に尽力した、三木武吉という保守政治家は、演説会でライバルから「愛人が4人もいるじゃないか」と追及された際に「4人ではなく、事実は5人であります」「いずれも年を取ったが、これを捨て去るごとき不人情はできませんから、みな今日も養っております」と言い放ちました。
聴衆が感心して、笑いと拍手に包まれたことは有名です。

 また、社会党から右派が飛び出して作った「民社党」の委員長を務めた、春日一幸も、週刊誌で「3人の愛人がいる」と書かれると街頭演説の場で「本当は5人」と発言しました。

 大野伴睦にも愛人がいました。亡くなったとき、葬儀に出席できない愛人のために、大野伴睦の番記者だった読売新聞の渡邉恒雄が遺骨を拾って愛人に渡したと、渡邉自身が美談として本に書いています。

 日本でも、不倫に寛容な時代があったというわけです。

池上 彰
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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