なぜ日本は借金大国でも破綻しないのか?他国とは違う「2つの理由」とは
6/13(土) ダイヤモンド・オンライン
日本の国債残高は1000兆円を大きく超え、先進国の中でも突出した水準にある。
それでも、日本が財政破綻に陥るという現実的なシナリオは語られていない。
なぜこれほどの借金を抱えながら、危機が表面化しないのか。
そこには、他国とは異なる日本特有の構造がある。
※本稿は、ファンドマネージャーの堀井正孝『経済はお金から学べ』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。
● 巨額の財政赤字を抱えながら なぜかデフォルトしない日本
日本の普通国債の残高は、2025年度で約1129兆円になる見込みです。
また、日本の借金依存度(編集部注/GDP規模に対する債務の残高)は、不本意ながら、世界でも突出しています。
今の日本は、自他共に認める借金大国です。そして、財政赤字国でもあります。
財政赤字といえば、ギリシャ、英国、米国など、日本よりも景気が良さそうに思われた国々で、慌てふためくニュースが報道されたのを覚えていますか。
ギリシャでは、2009年10月、政権交代をきっかけに、旧政府が巨額の債務を隠蔽していたことが発覚しました。
実は、超が付くほどの財政赤字だったことがバレてしまったのです。
ギリシャの国としての信用は失墜し、ギリシャ国債利回りが急騰(価格は暴落)したのが「ギリシャショック」です。
ギリシャショックは、「ユーロ危機」に発展します。
イタリアやスペインなどで、ユーロ圏の国債が暴落し、財政赤字が拡大、信用不安の連鎖が起こりました。
英国では、2022年9月、国債、通貨、株式が同時に売られるトリプル安に見舞われました。
これが「トラス・ショック」です。
当時のトラス政権による大規模減税策の発表がきっかけでした。
政策自体は良かったのですが、その財源は、国債の発行であることが判明しました。
BOE(イングランド銀行)が、利上げと保有国債の売却を決定した直後でもあり、英10年国債利回りが急上昇(価格は下落)しました。
国債の発行で新たな借金をするのですから、財政は悪化することが予想され、英ポンドも株価も下落しました。
米国では、しばしば債務上限問題が議論になります。
債務上限とは、政府が国債発行などで借入できる金額の上限のことです。
政府は議会の承認を得て、この上限を引き上げない限り、新たな借入ができず、国債の元利払いが滞る「デフォルト(債務不履行)」のリスクが生じます。
特に、2011年、2013年、2015年は、この債務上限の引き上げに関する法案がギリギリまで成立せず、米国の財政運営の混乱は、世界中の注目を集めました。
しかし、日本は借金大国なのに「日本が破綻する」とか「日本国債がデフォルトする」などというニュースは聞いたことがありません。なぜなのでしょうか。
● 日本政府は国内から お金を借りている
日本の財政収支は、図2-17のとおり、赤字が続いてはいますが、赤字幅は減少し、財政はかなり改善しています。
借金が多いのに、国の財政は、まったくといっていいほど悪くない状況なのです。
もちろん、政府の財政構造の見直しと物価高で税収が上がったことは、赤字幅減少の理由の1つではありますが、他国でも同様のことは起こり得ます。日本だけは破綻しない、と考える理由にはなりません。
日本には、他国にはない、日本特有の理由が2つあるのです。
借金大国でも財政が悪くない1つ目の理由は、「国民がお金の貸し手」であることです。
国は資金を調達するために国債を発行し、資産運用したい人がその国債を購入します。
購入者は、銀行、保険会社、日本年金機構などです。
運用する資産は、銀行なら預金、保険会社や日本年金機構なら保険料なのですが、元をたどれば、家計や企業からのお金になります。
図2-18のとおり、国は、家計や企業からお金を借りて、社会保障や公共事業などのモノに変えて、国民に返しているのです。
つまり、日本では「国内」でお金がスムーズに流れ、かつ、うまく循環している状態が続いています。
● 債権者が海外投資家だったギリシャは 国債を一気に売られる事態に
日本のようなお金の循環は、意外に珍しいのです。
海外では、借金を他国に頼ることが多く、自国内でお金の循環が完結できない例が多々あります。
さきほどお話ししたギリシャショック(2009年)に至るまでのギリシャが、その最たる例です。
ギリシャの財政赤字の推移は、図2-19のとおりです。
1990年代のギリシャは、ユーロ加盟(2001年)に向けて、財政赤字を削減していました。
ところが、2004年のアテネオリンピック開催が決まると、競技施設などの建設、新国際空港の開港(2001年)、鉄道や地下鉄、道路などのインフラ整備を次々と行ったことで、財政赤字が拡大しました。
当時の政府は、この財政赤字を隠蔽していたのです。
無理な財政状況に加えて、ギリシャ国債の国内保有割合は3割程度で、海外投資家が残りの国債を保有していました。
ギリシャは、借金の多くを国外から調達していたのです。
2009年の政権交代で、とうとう旧政府の隠蔽が発覚しました。
ギリシャは信用を失い、海外投資家が、もうギリシャにお金は貸せないと、保有していたギリシャ国債を売却したため、ギリシャショックにつながりました。
国債は、国外の投資家の保有割合が多いと、売られやすく、一気に買い手がいなくなる事態が起こり得るのです。
● 国債の残高は巨大だが その半分を日銀が持っている
日本が借金大国でも財政が悪くない2つ目の理由は、「日銀が国債の半分近くを保有」していることです。いい換えると、日本は「借金にかかる利払い費が軽減」されている状態ということです。
日本国債の利払い状況を、米国と比較してみましょう。
米国は、景気が良さそうなのに、財政赤字の拡大が問題となっています。
なぜなら、米国の金利が上がるのに伴い、調達金利が高くなるため、新たな借金にかかる利払い費が増加するからです。
図2-20は、米国の財政赤字(対GDP比)の推移とその内訳です。
2023年以降は、利払い費が加速度的に増える予測となっています。
借金の利息を払うために借金をしなければならず、利払い費が雪だるま式に増えてしまう見通しなのです。
当然、財政赤字も拡大してしまいます。
だから、現・トランプ政権は、貿易関税の導入や政府部門の人員削減などで、必死に財政赤字を削減しようとしているのでしょう。
一方、日本の財政赤字(対GDP比)の見通しは、図2-21のとおりです。
残念ながら、米国同様、借金による利払い費は増加傾向にあり、赤字は拡大していく予測ですが、米国と比べ、日本の赤字の水準はかなり低くなっています。
また、実質的には、日本の財政赤字はグラフの見た目以上に軽減されるはずなのです。もちろん、日本の金利は米国よりまだまだ低いから赤字幅が少ないという見方もできます。
日本のほうが調達金利が低いので、今のところ、新たに借金をしても日本の利払い費が米国のようなペースで増えることはありませんが、日本特有の、もっと大きな理由があるのです。
それが、「日銀が国債発行額の半分近くを保有していること」(図2-22)です。
FRB(編集部注/米連邦準備制度理事会。アメリカの中央銀行制度の最高意思決定機関)やECB(編集部注/欧州中央銀行。ユーロ圏20カ国の金融政策を担う中央銀行)の国債保有割合は日本に比べてかなり少ないのが現状で、これこそが、日本と他国とが大きく異なる点なのです。
● 政府が支払った利息は 日銀から返ってくる
国の財政状態を考える際には、政府と中央銀行を一体化させた「統合政府」を採用することが多くあります。
統合政府の考え方は、図2-23のとおりです。
(1)は、政府が日銀に払う利息、(2)は日銀のいわゆる純利益のようなもの(以下、利益)です。
この利益には、利ザヤ(長期金利−短期金利)のほか、国債以外に保有している外国債券の利息やETF(上場投資信託)の配当金も含まれます。
日銀は、その年度の利益を剰余金として政府に渡すことになっています。
政府は、国債を発行して資金調達するかわりに、国債保有者に利息を払います。
もちろん日銀も、国債の保有者として、政府から利息(1)を受け取ります。
そして、日銀は、その利息によって生まれる利ザヤを含む利益(2)を政府に渡します。
2024年度は、政府は、日銀に利息として(1)2.1兆円を払っていますが、最終的には、剰余金として日銀から(2)2.3兆円が戻ってきています。
統合政府で見ると、日銀に支払う利払い費の一部は、日銀の利ザヤになり、剰余金という名目に変わって、政府に戻ってくるような仕組みになっています。
もし、日本の金利が上がって政府の利払い費負担が増えたとしても、日銀が多くの国債を保有していれば、日銀の利ザヤも増えることになります。
その分政府が受け取る剰余金が増えることになるので、やはり実質的な政府の利払い費の負担は軽減されます。
このような仕組みから、日本では、日銀が国債の約半分近くを保有しているからこそ、他国に比べて、それほど借金が問題視されていないというわけです。
堀井正孝

