2026年07月08日

日本のアニメは人気なのに、なぜクールジャパン機構は大赤字なのか?繰り返される官民ファンドの失敗

日本のアニメは人気なのに、なぜクールジャパン機構は大赤字なのか?繰り返される官民ファンドの失敗
7/7(火) Wedge(ウェッジ)

 日本のコンテンツ分野の海外売上の合計は6兆円を超えた。
これは、映画(実写)、テレビ番組、アニメ(劇場・放送・配信等と商品化ライセンス)、家庭用ゲーム(ソフト販売/オンライン)、スマホ・PCゲーム、出版(マンガが主)の合計である。
うち、アニメの海外売上が前年比26%の大幅増で約2.2兆円となり、全体の拡大を支えたという(「2024年の日本と世界のコンテンツ市場の規模と日本のコンテツの海外売上の調査結果」ヒューマンメディア2025年11月28日)。

 日本のアニメなどは世界で評価されているのに、日本のコンテンツを海外に広げる目的で設立した官民ファンド「海外需要開拓支援機構」(クールジャパン機構)は、2025年度の決算で累積損失が540億円になった。
巨額の赤字により、政府は今後、機構の廃止や他のファンドとの統合を前提に、応策の具体的な検討に入るという。

クールジャパン機構は何をしてきたか

 クールジャパン機構は、日本の魅力ある商品やコンテンツの海外展開を促進するため、民間企業と共同で総額2040億円の事業に資金を投じてきた。
例えば、クモの糸由来の人工のタンパク質素材を開発するスタートアップ「スパイバー」に累計140億円、三越伊勢丹ホールディングスと共同展開の百貨店ISETAN The Japan Storeに約9.7億円、日本のテレビ番組を海外へ発信するインドネシアの「WAKUWAKU JAPAN」に約44億円などである。

 ところが、スパイバーは私的整理、ISETAN The Japan Storeは閉鎖、「WAKUWAKU JAPAN」放映中止に追い込まれた(みんなの政治ナビ「クールジャパン機構のメンバー構成は?失敗例と成功例から見える課題」による)。

もそも、スパイパーやマレーシアの百貨店への投資がなんでクールジャパンなのか理解しがたい。
「WAKUWAKU JAPAN」はクールジャパンと言えるかもしれないが、ストリーミング配信が主流になっている時に衛星放送で配信しようとし、その設備に多額の投資を要したことが損失の主因である。

余計なことをやり過ぎた

 この結果は、クールジャパンが本来の仕事をしていればそんなことにはならなかったと言えるかもしれない。
日本のコンテンツに関心を持ち国内でビジネスにしたい人に売り込む、同時に海賊版を取り締まり、知的財産権を確保するという仕事だろう。
それだけなら、そんなにお金はかからない。
大きな金額にするために大プロジェクト化して失敗したのだろう。

 つまり、クールジャパンを世界に売り込むために巨額の予算が必要だと喧伝して、予算を取った以上は使わなければならないとなって失敗したのだろう。
また、巨額の予算を管理運営するための費用も巨額となる。

 ファンド設立時からの累積必要経費は238億円になるという。
内訳としては、人件費(101億円)、調査研究費(25億円)、地代家賃等(23億円)などである(経済産業省「株式会社海外需要開拓支援機構について」26年2月)。

本来のことをやろうとしても大失敗

 クールジャパン機構は、余計なことをやり過ぎて失敗したと言えるだろうが、本来のことをしようとしてもうまくいかなかった。
クールジャパン機構ではないものの、官民ファンドの産業革新機構が22.1億円出資したANEW(株式会社All Nippon Entertainment Works、11年設立)という会社がある。
「日本の物語のハリウッド映画化を促進することを通じて、日本の映画、放送コンテンツなど日本の知的財産の海外展開の成功事例を加速させる」ということなので、まさにクールジャパン機構が出資するに相応しい会社である。
ANEWが設立された後の13年にクールジャパン機構が設立されたので、出資がなされなかっただけだろう。

 ところが、ただ一つの映画化も実現することなく、出資額のほぼ全額を失って解散した。
これは、ANEWが映画ビジネスの特性を理解していなかったことによる。

 そもそも、映画は一本ごとに才能とお金を集めて作られるものであり、プロデューサーは企画、脚本、監督・主演の決定、現実の制作、広告、配給などそれぞれの段階でリスクを負いながら資金集め、提供するものだ。
ところが、会社を作ってそのスタッフに高給を払いながら、まったく現実の映画化ができなかったというものだ(この顛末はヒロ・マスダ『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』光文社新書、2020年、による)。

 日本の映画製作費は、1本平均3.5億円という(東京工科大学HP「エンタテインメントビジネスに求められる視点とは」)。10億以上の配給収入(興行収入から映画館(興行側)の取り分を差し引いた映画配給会社の取り分。制作会社の取り分はさらに小さくなる)がある映画は23年で34本しかなかったのだから、当然だろう。

 アメリカでも、製作費はハリウッドの大作(100億円)でなければ、数十億円程度である。10億円の制作費の映画の企画を売り込むためのコストはその5%以下だろう。
ところが、ANEW は映画7本の企画が進められていたが、1本も上映されることはなかった。
出資額が22.1億円だったので、1本あたり3億円余を使って、何の成果も上げられなかったということになる。

どうしたら良いのか

 日本の映画が海外の一流映画祭で受賞すれば多くの日本人は喜ぶ。
オリンピックの金メダルも同じだろう。
オリンピックの金メダルならば、外国人コーチを雇う、合宿をする、練習、筋トレ、食事を合理的なものにするなどで、メダルを増やせることが分かっているようだ。
金メダルを取った選手への報奨金を増額するという手もある。多くの発展途上国がしていることだ。

 国民が喜ぶことに税金を使うのは、筆者は合理的であると思う。
授賞監督に、映画祭の格に応じて、次回作を作るための数億円の報奨金を渡せば、より良いものを作ってくれるかもしれない。官民ファンドにお金を流すよりは良い結果が生まれるだろう。
あるいは、海外での著作権強化のために使うという使途の制限を付けても良いだろう。

 前掲のマスダ氏の著書(93〜95頁)には、マスダ氏からANEWの実態を知らされた財務省職員は、ANEWが本来やってはいけない投資をしていることを確認した上で、「財務省としては何もできない」と答えたとのことである。
財務省には、増税を唱える前に、すべきことをして欲しい。

 また野党も、クールジャパン機構のお粗末さや官民ファンド全般の失敗を攻めて欲しい。
マスダ氏の著書や「みんなの政治ナビ」、内閣官房「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会」の資料もある。
週刊文春より読み込むのは大変だが、こちらを追求すれば、きちんと野党の仕事をしていると賞讃されるだろう。

原田  泰
posted by 小だぬき at 01:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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